タックス・法律の視点から見る今のアメリカ
アメリカにおける「連邦v州」
アメリカでは、初夏から各州政府がロックダウンやその他の規制を徐々に緩和し、経済再始動に伴う人の動きが徐々にだけど活発化してきている。個人的にも、この夏は普段の過密スケジュールの出張がゼロになったし、国外旅行も制限が多すぎて敢えて行く気しないんで、Interstate飛ばして米国内の四荒八極って言ったら大げさだけど、20州くらい訪問してこの目で様子を伺ってみた。使ったルートの関係でテキサスとか南部は通らなかったけど、ネブラスカ、アイオワ以北をCoast-to-Coas往復別ルートで突破し広大な自然を満喫することができた。
両海岸の都市とは異なるカルチャーを肌で感じることができたし、州境を跨ぐと経済活動の様子が異なるんで興味深かった。アメリカはハワイ、アラスカ以外は陸続きで、州は恣意的に線を引いた州境で区分されてるに過ぎないんだけど、レストランがどんな風に営業してるか、とか、店員とか周りの客がマスクしてるか、とか州によって結構違う。普段、家があるNYC周りの北東部やMarina del Reyのある南カリフォルニアとか、または出張でよく行くイリノイ、オハイオ、ミシガン等はそれなりになじみがあるけど、その他の多くの州で、コロナ禍で各州の市民がどんな風に暮らしているか、っていうのをライブで見たり、異なる価値観を体感することができて貴重な体験となった。こんなことできるのも、仕事が3月から100%テレワークなったおかげ。ハイスピードインターネットさえあればどっからでも24・7働けるし、今まで機内でやってたプロジェクトとか、モンタナ州やワイオミング州の抜けるような青空の下で対応することができて生産性向上にも寄与(?)。新鮮な空気を吸いながら読む財務省規則は理解が進む。
州が主権国家に近いアメリカ
アメリカは連邦憲法に基づく連邦国家制度上、州に国家主権同様の権限の多くがデフォルト的に与えられる。連邦政府は憲法上、明文化された特定の権利しか持たない(はずだった?)。国防、移民、通貨とか国単位でしか管理できないマターは連邦政府だけど、公共や市民一般の利益増進をはかるのは州政府の管轄。このシステムは、憲法に託された建国時の知恵で、要はDCなんかに集まるエリート達には、米国隅々の異なる事情までは分からないんだから、日常のことは地元市民に近い州政府が各々いいように管理しなさい、ということ。こんな訳で、州は日本の県とかとは基本的に位置づけが異なる。州の経済政策も各々。コロナ対策も州ごとなんで、日本から見てると国としての対応はかなりちぐはぐに映るだろう。まあ、連邦制度だとしても、実際あまりにちぐはぐだった感は否めないけどね(苦笑)。
DCのパワーはどこまで?
選挙におけるチョイスにも関係するけど、連邦政府と州の関係・政府間の住み分けをどんな風に解釈するか、っていう点が共和党と民主党で異なってて、この差異が結構目に見えて市民生活に影響がある。共和党はどちらかというと憲法を律儀に解釈し、政府の介入、特にDCの連邦政府が市民生活に干渉することを嫌う。民主党は憲法を時代と共に進化するコンセプトと捉え政策を推し進めるため自由に解釈し、大きな政府が市民の面倒を見る、またDCの連邦政府も拡張的に全国の津々浦々まで目を光らせる、みたいな感じだろうか。ちなみに後者を「リベラル」っていうから面白い。個人の自由という意味で使うリベラルという用語は、どちらかというと前者のように感じるけど、アメリカ政治的なラベリングとしては後者がリベラル。前者を極端に追及するとRon Paul、今では息子のRand PaulみたいにLibertarianという派に属すことになる。ちょっと短絡にまとめ過ぎてるけど、まあ当たらずしも遠からず。
著者プロフィール
- 秦 正彦(Max Hata)
東京都出身・米国(New York City・Marina del Rey)在住。プライベートセクター勤務の後、英国、香港、米国にて公認会計士、米国ではさらに弁護士の資格を取り、30年以上に亘り国際税務コンサルティングに従事。Deloitte LLPパートナーを経て2008年9月よりErnst & Young LLP日本企業部税務サービスグローバル・米州リーダー。セミナー、記事投稿多数。10年以上に亘りブログで米国税法をDeepかつオタクに解説。リンクは「https://ustax-by-max.blogspot.com/2020/08/1.html」