デモ参加者を「害虫」扱い...なぜフランスの警官は、ほかの欧州諸国に比べて乱暴で高圧的なのか?
Why France Is Burning
10代の若者が警官に射殺され、各地で暴動が起きた(6月30日) JUAN MEDINAーREUTERS
<荒くれ者ぞろいの警官が貧困地区の移民を射殺、「差別はない」との建前と現実の大きな矛盾>
公式には人種差別の存在を否定しているフランスでアラブ系の少年が白人警官に殺され、怒りの暴動が全国各地で起きた。この国の治安当局に、暴力と人種差別の体質が染み込んでいる証拠だ。
そもそも大都市周辺の最貧地区では、以前から黒人やアラブ系の住民と警官隊が一触即発の状態にあった。しかもフランスの警官は、ほかの欧州諸国に比べて乱暴で高圧的なことで知られる。
去る6月27日、アルジェリア人とモロッコ人の血を引く17歳の少年がパリ西郊外のナンテールで、交通検問中の警官に射殺された。現場に居合わせた市民が一部始終をスマホで撮影し、ネットに上げた。その動画が瞬時に拡散し、暴動に火を付けた。2020年の米ミネソタ州ミネアポリスで黒人男性ジョージ・フロイドが警官に首を圧迫され、窒息死したときと同じだ。
あっという間だった。暴動はバンリュー(都会の外郭を成す環状線の外側にある地区)から都心のスラム街にも広がった。街頭にはバリケードができ、車や公共施設に火が放たれ、商店が略奪された。
フランスがこんな騒乱状態に陥るのは05年以来のことだ。あのときは、パリ郊外で警官に追われた若者3人が逃げ切れずに事故で2人が死亡、1人が重傷に。被害者と同じマイノリティーたちの怒りが爆発し、暴動は3週間も続いた。
フランスの警察には「人種差別と残虐性という二重の問題」があるのに、「歴代の政権はどちらからも目を背けてきた」と指摘するのは、グルノーブル政治学院の社会学者セバスチャン・ロシェだ。
似たような事件の映像が出回った例は過去にもあるが、「ここまでひどいのは初めて」だと言ったのは、リール大学教授のエリック・マルリエール。それは「フロイドの事件を想起させる残酷な映像」で、だからこそ激しい抗議が起きたとみる。
フランスでは今年、エマニュエル・マクロン大統領の進める強引な年金制度改革に怒った人々の抗議活動が何カ月も続いていた。今度の事件は、そうした怒りの炎に油を注ぐ格好になった。ブリュッセルでのEU首脳会議に出席していた大統領は、慌ててパリに戻った。予定していたドイツ訪問も、取りあえず延期するしかなかった。
フランスの警察は昔から高圧的で、特に異民族には厳しかった。1961年にはパリの警視総監モーリス・パポンの指揮下にある警官隊が、アルジェリアの独立を求めるデモ隊に襲いかかり、何十人(何百人という説もある)もの市民を虐殺している。