中国が「TPP」に加わりたい本当の理由...2つの大きな政治的メリット
CHINA AS TROJAN-HORSE CANDIDATE
2018年3月にチリで行われた署名式に集まったCPTPP11カ国の代表 RODRIGO GARRIDOーREUTERS
<中国にさほど経済的メリットはないが、大きな政治的メリットがある>
この3月、アジア太平洋地域の貿易協定CPTPPに参加している11カ国は、2018年の創設メンバー以外で初めてイギリスの加盟を認めることを決めた(アメリカはトランプ前政権時代に、CPTPPの前身であるTPPを離脱)。
そうなると、今後は中国、そして台湾の加盟申請への対応が焦点になる。その点、台湾は既にCPTPPのルールに合わせて法制度を変更している。しかし、この協定の中心メンバーである日本、カナダ、オーストラリアは、中国が加盟資格を満たしているかには懐疑的だ。中国は、国内産業への補助金、労働組合、知的財産権などの面でCPTPPのルールを遵守できているとは言い難い。11カ国は、中国に甘い顔をせず、既存の加盟基準を貫くべきだろう。
しかし、そもそも中国はなぜ、CPTPPに加わりたがるのか。中国はCPTPPとは別に、自国の主導により、東アジア地域の経済連携協定RCEPを発足させている。それに、CPTPP加盟国の一部とは個別の貿易協定を結んでいるし、カナダやイギリスとは政治的摩擦はあるものの、貿易は活発だ。
その意味では、CPTPPに加盟しても中国にさほど経済的メリットはない。しかし、大きな政治的メリットが2つある。
1つは、自国が先に加盟すれば、台湾をCPTPPから締め出せること(CPTPPへの新規加盟には、既存メンバー全ての同意が必要)。そうなれば、台湾は地域レベルの貿易協定に1つも加われなくなる。
もう1つは、CPTPPのルールを変更してロシアを迎え入れる道を開けることだ。あるいは、RCEPとはライバル関係にあるCPTPPの内側で不協和音を生み出し、妨害活動を行うことも可能になる。
CPTPP加盟国にとって安全な戦略は、まず台湾を受け入れて、中国の加盟申請は拒否するというものだ。なにしろ、中国は10年に、日本へのレアアース輸出を全面的に停止し、一方的な貿易戦争を仕掛けた。ここ数年は、カナダとオーストラリアを標的に大々的な貿易戦争を行っている。
中国共産党政権は、こうした貿易戦争のやり方をどこで学んだのか。お手本は、中国の長い歴史にあるのかもしれない。春秋戦国時代に記されたとされる思想書『管子』に、こんな話が紹介されている。
斉という豊かな国の王は、隣国の衡山を併合したいと思っていた。衡山は小さい国だが、質の高い武器の生産で市場を独占していた。王の命を受けた斉の宰相、管仲は、まず衡山から大量の武器を購入した。すると、斉と敵対する近隣の国々は不安を感じ、同じように衡山から大量に武器を購入し始めた。衡山の王は大喜びし、国民に農業をやめさせて武器を生産させて輸出し続けた。