中国の反体制派は「同期の非対称」問題を克服し、体制を転覆させられるか
THE CHINESE REVOLT ENDS?
『史記』に伝わる「鹿を指して馬と為す」という故事がある。紀元前210年の話だ。
当時、権勢をほしいままにしていた宦官の趙高(ちょうこう)が、部下の忠誠心を試すために、鹿を指して馬だと言った。いや鹿は鹿だと言い張った者は排除され、処刑された。はい馬ですと答えた者は絶対的忠誠心の持ち主として重用され、その他大勢は沈黙した。
嘘で塗り固める権力体制
今日に至るまで、中国の権力者はこの手法を用いている。共産党の指導部も、危機に直面するたびに真っ赤な嘘をつく。そして社会の上から下までを無条件の支持者で固め、不忠者を排除し、その他大勢の者を沈黙させる。
そうして危機を乗り越えれば、党の権力は盤石となる。
無謀な大躍進政策で多くの餓死者を出した1958年の毛沢東も、天安門事件で多くの若者を死なせた1989年の鄧小平も、この手法で生き延びた。
2023年の習近平もしかり。これが中国のソフトパワーであることを、世界、とりわけ欧米の人たちは理解していない。
しかも中国共産党は、この間にハード面でも支配体制の基盤を強化している。例えば、PCR検査の陽性者をQRコードでタグ付けして強制隔離するシステム。これはそのまま、反体制派の追跡と収監のツールとして利用できる。
封鎖した町で民家に押し入り、住人にPCR検査を強いた防護服姿のチームは、服を着替えればいつでも反体制派の家に踏み込める。中国全土に建てられた無数の巨大な隔離病棟は、いつでも政治犯の強制収容所に転用できる。新疆ウイグル自治区の今と同じだ。
この3年間で、こんなに便利な統治インフラを構築でき、じっくり試験運用することもできた。だからこそ今、共産党は都市封鎖を解き、経済の再建に乗り出したのだ。
しかし今回、中国の人々は意を決して街頭に出た。彼らが再び立ち上がり、あの国の体制全体を転覆させる可能性はないのだろうか?
あるとしても、容易ではない。全体主義の統治インフラは一段と強化されているし、中国の反体制派には容易にまとまらない「同期の非対称」という深刻な問題があるからだ。
あの国は広い。どこかで起きた反乱が各地に広がり、統一された主張と効果的な組織、堅固な指導部を持つ運動にまとまるまでには時間がかかる。
一方で共産党は上意下達の全国組織だから、すぐに同期して一斉に対応できる。今回のように一歩下がってガス抜きをするもよし、武力で弾圧するもよしだ。