1人の子供がいじめられ続けることで、全体の幸せが保たれる社会...「神学」から考える人権

2021年9月2日(木)12時12分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

■人権は大切だけれど、人権って何ですか?

教授: さて、本題に入りましょう。今日は人権と、人間の尊厳について考えます。唐突に聞こえるかもしれません。しかし、人権や尊厳について考えることは、準拠枠を広げることにも関係してきます。まず、皆さんの人間観について質問いたしましょう。

果たして人間は、尊厳を持つ存在なのでしょうか?
もし尊厳を持つのであれば、それはなぜでしょうか?

いろんな答えがあるでしょうね。

この問いは、次の問いとも密接な関係があります。それは、

なぜ人間は生まれながらにして人権を有する存在なのか?

という問いです。一九四八年に制定された世界人権宣言によると、人権が存在するのは人間が尊厳を持つ存在だからです。「すべての人間は、生れながらにして自由であり、かつ、尊厳と権利において平等である」と、宣言の第一条に記されています。

私たちは「人権」という言葉を日常生活で耳にすることがあります。たとえば、毎年十二月十日は世界人権記念日(World Human Rights Day)です。日本でも、十二月四日から十日は人権週間です。

「生存権」や「自由権」、「社会権」などの基本的人権は、近現代民主主義社会の核心的な理念です。現代民主主義社会は、「人権」という思想の土台の上に成立していると言ってもいいのです。先進国だろうと、開発途上国だろうと、「人権」という概念を無視することはできない世界に、いま私たちは生きています。でも、「人権」を突き詰めて定義しようとすると、簡単ではありません。まず、人権の土台になっている「人間の尊厳」について少し考えてみましょう。先ほどの世界人権宣言によれば、人間は「人権」を有するほどに尊い存在ですが、その根拠はどこにあるのでしょうか? なぜ、人間は尊いと言えるのでしょうか?  この問いに答えられる人は?

鈴木: 人間が唯一無二の存在だからかなぁ。人は皆、違っています。外見も性格も。唯一無二であるということが、人をかけがえのない存在にしてくれるんじゃない?

カールセン: 動物も植物も、唯一無二だよね。石ころも、コロナウイルスもゴキブリも唯一無二と言えばそうだよ。でも、全然尊くないなぁ。ぼくは、人は他者から愛されたり、大切にされたりするから尊いんじゃないかと思うんだけど。

鈴木: その意見も少しもろくない? 大事にしてくれる家族がいなかったり、愛してくれる人がいなかったりする人はいくらでもいるよね。そういう孤独な人たちは、人間としての尊厳を持っていないってことないっしょ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

欧州委、ブラックロックとMSCのスペイン港湾権益買

ビジネス

午前の日経平均は小反落、手掛かり難で方向感乏しい

ワールド

中国の銅生産能力抑制策、業界関係者から不十分との指

ワールド

焦点:香港火災で市民の不満爆発も、政治統制進める中
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 3
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 4
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 5
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 6
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 7
    がん患者の歯のX線画像に映った「真っ黒な空洞」...…
  • 8
    「攻めの一着すぎ?」 国歌パフォーマンスの「強めコ…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    7歳の娘の「スマホの検索履歴」で見つかった「衝撃の…
  • 1
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 2
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 3
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やってはいけない「3つの行動」とは?【国際研究チーム】
  • 4
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 5
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 6
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 7
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 10
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中