最新記事

新冷戦

黒海上空でロシア軍機が米軍機に異常接近、新冷戦で増えるニアミス

2017年11月29日(水)20時30分
ダミアン・シャルコフ

米軍機を脅かしてきたとされるロシアの主力戦闘機スホーイSu30の同型機 Shamil Zhumatov-REUTERS

<沿岸国がほとんど旧ソ連・東欧から西側に奪われた黒海で、巻き返しを図るロシアとアメリカのつばぜり合いが激しさを増している>

ロシア軍の戦闘機が黒海上空で米軍機に「危険な」異常接近をした件で、両国の非難合戦がヒートアップしている。ロシア軍の元将校は、そもそも米軍機が黒海上空を飛んでいるのがおかしいと言った。

ロシアのスホーイSu30戦闘機は11月25日、黒海上空で米哨戒機P8Aポセイドンに異常接近した。同盟国の領海に接近し過ぎたロシア機を発見した米軍機が型どおりに追い払おうとしたときだ。黒海は公海なので、ロシアにも周辺のアメリカの同盟国にも上空を飛ぶ権利はある。

黒海上空では、2014年にロシアがウクライナのクリミアに侵攻して以降、緊張を伴う戦闘機のニアミス事例が何度も起きている。だが今回のニアミスは、そうした事例のなかでもとりわけ目を引くものだ。

「自国の湖」のように振る舞いだしたロシア

米国防総省によれば、ロシアの戦闘機は急降下して米軍機を追跡したとれば、ロシア機はさらに米軍機の前を左右に横切りながらアフターバーナーを噴射したという。米軍機は混乱して「15度回転し、激しく揺れた」と、国防総省は説明している。

ロシア軍はその後、公海上で進路妨害があったことを認めたが、危険飛行だとする非難には反応しておらず、今回の事案に関するさらなる詳細についても明らかにしていないと、ロシア国営のイタル・タス通信は報じている。ロシア国営メディアは、ロシア機に落ち度があったとする主張を強く疑問視している。

国営テレビ局のロシア24は、ロシア機が「米国哨戒機のもくろみをつぶした」と報じている。また、国営ラジオ局のスプートニクは、ロシアの「軍用航空機は理由もなくそのような飛行はしない」とした軍事アカデミー教授の発言を引用している。

ロシア軍はその後、公海上での米軍機に対する進路妨害は認めたが、危険飛行については触れていない。ロシア国営メディアは、ロシア機に落ち度があったとする主張をはなから疑問視している。

国営通信社のRIAノーボスチの取材に応じた元ロシア空軍副司令官のニコライ・アントシュキンも、米国の反応を一蹴した。「我が国の戦闘機は、単に指示を出し、接近しただけだ。パイロットは(米機を)確認し、立ち去らなければならないことを示したにすぎない」とアントシュキンは11月28日に述べている。

「そもそもアメリカが黒海にいるのがおかしい」とアントシュキンは言う。旧ソ連政府がトルコの港を除く黒海全域を支配していた時代には、外国の航空機が黒海上空を自由に飛行することなどなかったと嘆いた。

黒海に面する国は、南岸がトルコで、そこから時計回りにブルガリア、ルーマニア、ウクライナ、ロシア、グルジア(現ジョージア)。トルコ以外はすべてが旧ソ連・東欧諸国だった。

だがソ連崩壊後、ブルガリアやルーマニアなどがトルコのあとに続いてNATO(北大西洋条約機構)に加盟。旧ソ連のウクライナやジョージアも加盟に意欲を示してきた。

黒海北岸のクリミア半島をロシアに併合された時は、NATO軍が常駐していなかったせいだ、今やロシアが黒海を「自国の湖」のように扱っている、とトルコは憤った。

クリミア併合で新冷戦を始めたロシアは、黒海でも西側への圧力を強めている。

(翻訳:ガリレオ)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米GM、通年利益予想引き上げ 関税の影響見通し下方

ワールド

ウクライナ北部で停電、ロシア軍が無人機攻撃 数十万

ワールド

ロシア大統領府、米ロ首脳会談の日程は未定 「準備が

ワールド

米政府閉鎖、国民は共和党を非難 トランプ氏支持率は
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
2025年10月28日号(10/21発売)

高齢者医療専門家の和田秀樹医師が説く――脳の健康を保ち、認知症を予防する日々の行動と心がけ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 2
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 3
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 4
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「…
  • 5
    TWICEがデビュー10周年 新作で再認識する揺るぎない…
  • 6
    米軍、B-1B爆撃機4機を日本に展開──中国・ロシア・北…
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 9
    「認知のゆがみ」とは何なのか...あなたはどのタイプ…
  • 10
    【インタビュー】参政党・神谷代表が「必ず起こる」…
  • 1
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 2
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 3
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ…
  • 6
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 7
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 8
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「…
  • 9
    日本で外国人から生まれた子どもが過去最多に──人口…
  • 10
    「心の知能指数(EQ)」とは何か...「EQが高い人」に…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に...「少々、お控えくださって?」
  • 4
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中