最新記事

核開発

サウジアラビアがウラン濃縮開始で中東に嵐の予感

2017年11月1日(水)19時40分
クリスティーナ・メイザ

石油依存からの脱却を進めるサウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン皇太子 Faisal Al Nasser-REUTERS

<欧米との核合意で手足を縛られているライバルのイランはどう出る? 中東唯一の核保有国として睨みをきかせてきたイスラエルは?>

サウジアラビアが核開発の意向を示したことで、中東情勢はさらに緊迫の度を増しそうだ。

サウジアラビアの政府高官は10月30日、核開発計画の一環として、ウラン濃縮に着手する意向を明らかにした。核兵器の開発につながりかねないこの動きにより、中東ではさらに緊張が高まるだろう。

サウジアラビアで原子力政策を統括するハーシム・ビン・アブドラ・ヤマニは、原油埋蔵量で世界2位を誇る同国が核開発を推進する狙いについて、「自給自足」を目指すためだと説明した。経済を多様化し、石油依存から脱却しようとする、サウジアラビアの大きな社会・経済変革の一環だという。

ヤマニは、アラブ首長国連邦(UAE)のアブダビで開催されたエネルギー関連の会議で、サウジアラビアによる核開発の目標は「平和利用目的の原子力の導入」だと語った。

しかし原子炉は、核兵器の材料になるレベルまでウランの濃縮度を高めるためにも使用できる。また、サウジの宿敵であるイランは、アメリカなど6カ国々との核合意により核兵器開発を禁止され手足を縛られている。

そのため一部のアナリストは、サウジアラビアが原子力を手にすることにより、地域のバランスが崩れるのではないかと懸念する。

サウジアラビアの核開発について、アメリカは今のところ公式な立場を明らかにしていないが、サウジアラビアはアメリカにとって重要な同盟国。アメリカ政府がサウジアラビア政府の方針を支持するなら、サウジアラビアとイランの間の緊張関係がさらに高まる可能性がある。

唯一の核保有国イスラエルはどう出るか

ドナルド・トランプ米大統領はイランに対して敵対的で、核合意の遵守状態を疑って再交渉を迫ってきた。

「サウジアラビアの核開発をアメリカが支持すれば、現在のイランとの核合意を脅かす材料がさらに増えることになる」と、ハワード・ベーカー・センターの研究員、ハリソン・エーキンズは本誌の取材に対して述べた。

一方、ランド研究所の安全保障アナリスト、アマンダ・カドレクは、サウジアラビアが核武装する恐れは現実にあるが、具体的な懸念を抱くにはまだ早すぎるとみる。

「サウジアラビアの(核兵器開発に関する)意図や能力について、現時点で結論を出すのは時期尚早だ」と、カドレクは指摘した。

ペルシャ湾岸地域の国々のうち、現時点で核開発を実行に移しているのはアラブ首長国連邦(UAE)だけ。UAE初の原発は、2018年に稼働する見込みだ。

サウジアラビアは、まずは2基の原子炉を建設する計画であり、2018年末までに、建設に向けた契約を結ぶと、ヤマニは10月30日の会議で明らかにした。報道によれば、サウジアラビアは応札の可能性がある韓国、中国、フランス、ロシア、日本、アメリカの企業と接触を持ったという。

中東地域で核兵器を保有しているのは、イスラエルだけ。現在の勢力バランスを維持してこられたのは、核兵器の力が大きい。

(翻訳:ガリレオ)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国外相が米国務長官と電話会談、 「ハイレベル交流

ワールド

トランプ氏「ミサイル実験より戦争終結を」 プーチン

ビジネス

中国人民銀、公開市場での国債売買を再開と総裁表明 

ビジネス

インド、国営銀行の外資出資上限を49%に引き上げへ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
2025年10月28日号(10/21発売)

高齢者医療専門家の和田秀樹医師が説く――脳の健康を保ち、認知症を予防する日々の行動と心がけ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水の支配」の日本で起こっていること
  • 3
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した国は?
  • 4
    庭掃除の直後の「信じられない光景」に、家主は大シ…
  • 5
    「平均47秒」ヒトの集中力は過去20年で半減以下にな…
  • 6
    「信じられない...」レストランで泣いている女性の元…
  • 7
    メーガン妃の「お尻」に手を伸ばすヘンリー王子、注…
  • 8
    1700年続く発酵の知恵...秋バテに効く「あの飲み物」…
  • 9
    シンガポール、南シナ海の防衛強化へ自国建造の多任…
  • 10
    【テイラー・スウィフト】薄着なのに...黒タンクトッ…
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 3
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 4
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した…
  • 5
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...…
  • 6
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 7
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水…
  • 8
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 9
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 10
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 9
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中