最新記事

対北朝鮮制裁

北朝鮮に制裁強化の中国を悩ますロシアリスク

2017年10月5日(木)18時00分
ジョエル・ウスナウ(米国防大学中国軍事研究センター研究員)

プーチンは北朝鮮を武器などの格好の輸出先と見ているとの指摘も Kay Nietfeld-REUTERS

<中国の北朝鮮離れはロシアの影響力拡大を招く? 制裁の行方を左右する中ロの静かな駆け引き>

外交的勝利だ――8月5日、国連安全保障理事会が北朝鮮に対する新たな制裁決議を全会一致で採択した際、トランプ米政権はそう歓迎した。アメリカが提出した決議には、北朝鮮の主要な輸出品である石炭や鉄鉱石、鉛などの全面禁輸措置が含まれる。さらに国連安保理は9月11日、北朝鮮が9月3日に行った6回目の核実験を受けて、追加制裁決議も全会一致で採択した。

新たな制裁は成功するのか。決め手になるのは、北朝鮮の最大の貿易相手国である中国の態度だ。北朝鮮にどこまで厳格に制裁を科すかを決断するに当たって、中国は相反する複数の要素をはかりに掛ける必要がある。すなわち北朝鮮の反応や中国国内の世論、北朝鮮と取引する中国企業に米政府が新たな制裁を科す可能性だ。

もう1つ、それほど表立ってはいないものの潜在的に極めて重要な要素がある。ロシアの出方だ。中国が北朝鮮との経済関係を縮小したら、ロシアはその間隙を突いて北朝鮮への影響力を手にしようとするのではないか......。

北朝鮮におけるロシアの経済的存在感は微々たるもので、年間貿易額は1億ドルを下回る(中国は58億ドル超)。しかし、今後もそうとは限らない。

ニッキー・ヘイリー米国連大使は8月5日の制裁決議採択に先立って、中国が北朝鮮に対する経済的役割を縮小させるなか、ロシアが「穴を埋める」可能性があると警告。米財務省はこの数カ月間に複数回、北朝鮮の制裁逃れの手助けなどを理由にロシア系企業やロシア人を制裁対象に指定している。

中国が北朝鮮との貿易を減らせば、ロシアが得をする。そんな可能性が存在するだけでも、中国にとっては北朝鮮への圧力を考え直す動機になる。ロシアと北朝鮮の経済関係強化は、対北制裁の効果を台無しにする恐れがあるだけでなく、北朝鮮に対する中国の政治的影響力を今よりもっと弱めることになりかねない。

こうした事態を回避するため、中国は制裁実施を手加減したり、制裁をしつつ別の分野で協力を深めたりするかもしれない。事実、中国は北朝鮮からの石炭輸入を停止しているが、両国間の貿易額自体は増えている。

北朝鮮に接近するロシアについて、中国側の見方は分かれる。懸念派が注視するのは主に2つの点だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ネクスペリア中国部門「在庫十分」、親会社のウエハー

ワールド

トランプ氏、ナイジェリアでの軍事行動を警告 キリス

ワールド

シリア暫定大統領、ワシントンを訪問へ=米特使

ビジネス

伝統的に好調な11月入り、130社が決算発表へ=今
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「今年注目の旅行先」、1位は米ビッグスカイ
  • 3
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った「意外な姿」に大きな注目、なぜこんな格好を?
  • 4
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 5
    筋肉はなぜ「伸ばしながら鍛える」のか?...「関節ト…
  • 6
    米沿岸に頻出する「海中UFO」──物理法則で説明がつか…
  • 7
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 8
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 9
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 10
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 6
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 7
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 8
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 9
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 10
    庭掃除の直後の「信じられない光景」に、家主は大シ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中