最新記事

中国

米台「首脳」会談が刺激する中国の真の怒り

2016年12月15日(木)18時00分
ジェームズ・パーマー(フォーリン・ポリシー誌エディター)

China Photos/GETTY IMAGES

<台湾独立に反発する中国の国民感情は根が深い。「1つの中国」問題に稚拙な外交は禁物>(写真:「台湾の解放」と「日本製品の不買」を訴えるプラカード。中国市民の抗議活動は暴動に発展することも)

 トランプ次期米大統領と台湾の蔡英文(ツァイ・インウェン)総統の電話会談に、外交政策の専門家が頭を抱えるのも無理はない。トランプが軽視したのは、形式的な外交儀礼だけではない。台湾をめぐる中国人の感情を刺激しないように練り上げてきた綿密な戦略も、ないがしろにしたのだ。

 中国の反応は、今のところ意外にもおとなしい。ただし、中国の政治家と国民にとって、台湾は何よりも繊細な問題だ。

 私が以前に働いていた中国国営の英語メディアは、台湾に関する「正しい」表現の重要性をスタッフにたたき込んでいた。もっとも、数十年前に作成された指針は、「中国本土」は不可だが「中国の本土」は可、「台湾の課題」ではなく「台湾の問題」という具合だった。

【参考記事】トランプは「台湾カード」を使うのか?

 別の新聞社では、「中国最大、世界第2位の製紙工場」という表現がやり玉に挙げられたことがある。2日にわたる調査の結果、責任者の中国人記者は月給の約3割の罰金を科され、反省文を書かされた。世界第1位の工場は台湾にあるので「中国第2位」と書くべきだったのだ。

 皮肉なことに、中国が台湾の地位を軽んじることに執着するほど、問題が注目されるという結果をもたらしている。

 執着はメディアにとどまらない。中国の税関は、台湾と本土を異なる色で塗り分けた地球儀や地図を没収する。教育当局は、国際会議の冊子から台湾に関する広告を破り取る。模擬国連のイベントで台湾が参加「国」と表記されていれば、修正しろと学生が詰め寄る。

不幸で苦々しい国家主義

 ここに問題の本質がある。言葉を統制してねじ曲げることに余念がない中国共産党だが、台湾の場合は、政治的な制約だけが影響しているわけではない。本土の中国人は幼い頃から、台湾に関する言語感覚を骨の髄までたたき込まれているのだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

FIFAがトランプ氏に「平和賞」、紛争解決の主張に

ワールド

EUとG7、ロ産原油の海上輸送禁止を検討 価格上限

ワールド

欧州「文明消滅の危機」、 EUは反民主的 トランプ

ワールド

米中が閣僚級電話会談、貿易戦争緩和への取り組み協議
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」が追いつかなくなっている状態とは?
  • 2
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い国」はどこ?
  • 3
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 4
    「ボタン閉めろ...」元モデルの「密着レギンス×前開…
  • 5
    左手にゴルフクラブを握ったまま、茂みに向かって...…
  • 6
    主食は「放射能」...チェルノブイリ原発事故現場の立…
  • 7
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 8
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 9
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 10
    『羅生門』『七人の侍』『用心棒』――黒澤明はどれだ…
  • 1
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 2
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 3
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 4
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 5
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 6
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 7
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 8
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 9
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 10
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中