最新記事

音声アシスタント

深い感動を導くアマゾンの音声AIアシスタント+コンテンツの可能性

2016年12月28日(水)14時00分
鎌田博樹(EBook2.0 Magazine)

tatyana_tomsickova-iStock

<アマゾンのAIパーソナルアシスタント「Alexa」を使ったクリスチャン向けのサービスが始まった。声で呼びかける音声アシスタントとコンテンツのマッチンチングが喚起する深い感動は、さまざまな分野に適用できそうだ>

 ハーパーコリンズ社 (HC Christian Publishing)は、12月12日からアマゾンの音声サービスAlexaを使い、クリスチャン向けに祈りの日課プログラムの提供を開始した。"skill"と呼ばれる専用アプリをAlexa対応デバイスにダウンロードすることで使用可能となる。宗教出版の音声エージェント利用は成長性が高いとみられる。

「ディヴォーション」体験を通してコンテンツを販促

 キリスト教では祈りを[devotion, devotio=献身、敬虔]としてとくに重視している。聖書には1日7回と規定されおり、イスラム教の礼拝(サラート)より2回多い。祈りは静思とともに聖書の通読、聖句解説、執り成しの祈りなどから成る。HC Christianの消費者サービス(D2C)マーケティング担当のサリー・ホフマンSVPは、「このプログラムは、声を使って著者の素晴らしいコンテンツを広める、かつてない機会を提供するものです。」と述べ、同社のDevotionals Dailyブランドを使ったテストでは、このフォーマットが大きな反響を得たことが確認されたとしている。

 コンテンツは、「世界最大のクリスチャン出版社」であるHC ChristianのThomas Nelson および Zondervanブランドから提供されるが、中には著者自身の語りによるものが多く含まれており、それによってリスナーの深い体験を期待している。問題は出版社とアマゾンのビジネスモデルだが、Alexaはアマゾンのショッピングカートと連結しており、リスナーがAlexaに書名をカートに入れるように告げると、すぐにお買い上げを待っている状態になるという。ユーザーはフォーマット(印刷本、E-Book、A-Book)を選ぶだけでよい。同社はとくにギフト需要に期待している。

音声/エージェントとのカップリングは完璧

 現在でも、声とのつながりが最も強いコンテンツは「祈り」に関するものだろう。もともと祈りは耳で聴き、声で呼びかける身体的な体験だった。詩と同じく、経文は黙読するためにつくられてはいない。近代の出版は、聖書をベストセラーにしたが、人々のつながりを弱めた可能性がある。出版だけでは成り立たない仏教は急速に衰退した。宗教的コミュニケーションは、文字による知識と情報だけで維持することは難しい。"Devotionals skill" は読者のエンゲージメントをディヴォーションにまで高めることが期待されている。

 宗教書出版はデジタルメディアに魅力を感じながらも、読者=信者の生活習慣にまで定着するようなコンテンツ化を探しあぐねてきたが、音声/エージェントによる「祈り」のプログラムは、確実な成功が見込めるものと考えられる。成功すればイスラム教や仏教、ヒンドゥー教、新興諸宗派にも拡大する。それは、(1)オンデマンドのラジオ・プログラム、(2)日課としての祈り、(3)信者への強い説得力、(4)コンテンツ消費との結びつき、(5)拡張性、という要素を兼ねているからだ。このモデルは、別に宗教に限るものではなく、ディヴォーションが期待できるアイドル・ビジネスにも適用できそうだ。

アメリカでは2015年6月に発売された音声アシスアント「Amazon Echo」にAIアシスタント「Alexa」は搭載されている。日本ではまだ未発売。


○参考記事
International Notes: HarperCollins' Word of Prayer With Alexa; Registration for Spring Trade Shows, By Porter Anderson, Publishing Perspectives, 12/13/2016


※当記事は「EBook2.0 Magazine」からの転載記事です。

images.jpg

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

豊田織機の非公開化報道、トヨタ「一部出資含め様々な

ビジネス

中国への融資終了に具体的措置を、米財務長官がアジア

ビジネス

ベッセント長官、日韓との生産的な貿易協議を歓迎 米

ワールド

アングル:バングラ繊維産業、国内リサイクル能力向上
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 7
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 8
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 9
    ビザ取消1300人超──アメリカで留学生の「粛清」進む
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中