最強の味方のはずのビルがヒラリーの足手まとい
妻の選挙戦を助けるはずのクリントン元大統領が次々と失言や暴言を連発している
「婦唱夫随」 一緒に遊説に回るクリントン夫妻は険悪ムード? Bryan Snyder-REUTERS
人の心には、時に不合理で邪悪な想念が宿るもの。もしかするとビル・クリントン元大統領の胸の内にも、妻のヒラリーを大統領にしたくないという思いが潜んでいるのかもしれない。そうでなければ、雄弁かつ頭脳明晰なはずの元大統領が、妻の選挙戦で不用意な発言を繰り返す理由が分からない。
今月初旬にフィラデルフィアで開催されたヒラリー陣営の選挙集会でも、演説中に暴言を吐いた。彼の政権下で94年に成立した包括的犯罪防止法について、「黒人の命を軽視するな」と訴える活動家たちから非難のやじが飛んだときのことだ。
この法律には、重罪で前科2犯の者が新たに有罪となれば、たとえ3度目が軽い罪でも終身刑を科すという条項がある。そのせいで刑務所暮らしの黒人男性が激増し、結果的に刑務所が過密状態になったとされる。
ヒラリーはこの法律の廃止を公約している。夫のビルも昨年には妻に同調していた。なのに、こうほえた。
「13歳の子供を麻薬漬けにして、街なかで同じアフリカ系アメリカ人の子供を殺させるような大人を許すのか」と元大統領は反論した。「そんな奴も善良な市民だと思うのか。ヒラリーは違う。そうは思っていない! あなたたちが大切だと言う命を奪うような連中を、あなたたちは擁護するのか」
壇上でわめく元大統領の姿は、あっという間にネット上に拡散した。映像を見たヒラリー支持者たちは苦虫をかみつぶし、右派の陣営は狂喜した。
妻に追い越されたくない
今回の大統領選挙でヒラリーは黒人票を頼りにしている。警官による暴力で息子の命を奪われた母親たちと一緒に、黒人の命の重みについて語る活動も続けている。ところが自分の「実績」に執着する元大統領は、妻が忘れたい過去を思い出させてしまった。
あの法案が成立した当時、ヒラリーは夫を擁護し、暴力的な未成年のギャングを「スーパープレデター」と呼んだことがある。彼女は今回の選挙戦でその発言を蒸し返されたとき、素直に謝罪している。なのに、夫がまた蒸し返すとは!