最新記事

搾取

タイのエビ漁船に囚人の労働力?

エビが「高級品」から「食べ放題」の食材に変わったのは奴隷労働のおかげ

2015年2月17日(火)14時18分
パトリック・ウィン

アジア最悪 生臭い船で長時間こき使われるなら刑務所のほうがまし Damir Sagolj-Reuters

 タイの底引き網漁船で働くのは、アジアで最悪の仕事の1つだ。生臭い船の上で1日20時間労働、船長に奴隷のようにこき使われる。当然、そんな仕事をしたいという者は少なく、タイの水産業は強制労働に依存。出稼ぎ労働者をだまして船に乗せ、無給労働を強いている。

 そんななか、タイの軍事政権がこの労働者不足に奇抜な解決策をひねり出した。囚人だ。

 先週に突然廃案となった計画は、刑期満了になるまで囚人を漁船で働かせるというもの。過密状態の刑務所には空きができるし、水産業の人手不足も補える──まさに「一石二鳥」というのが政府の売り文句だった。

 しかし人権擁護団体ヒューマン・ライツ・ウォッチをはじめ労働や貿易関連の40を超える組織が声明を発表。「驚くほどひどい提案だ」と批判した。

「漁船では肉体的な虐待、船長による殺人まで行われている」と、ヒューマン・ライツ・ウォッチ・アジアのフィル・ロバートソン局長代理は言う。

 タイ産シーフードのサプライチェーンに囚人を組み込めば、その影響はアメリカのスーパーマーケットにも及ぶ可能性が高い。アメリカのシーフード輸入量で、タイは2位の座を占める。

 アメリカでエビが「高級品」から「食べ放題の食材」に変わった一因は、タイの安価な労働力(と強制労働)にある。

 問題の計画を考案した労働省は「国民に仕事を与えようとしただけ」で、「人権を侵害する」つもりはなかったと主張した。

 タイ漁船の奴隷労働から逃げ出してきた複数の人物は、残虐行為が日常茶飯事だったと語る。カンボジア人の元乗組員は、仲間が鉄の棒で殴られたと言う。「腕が折れ、一面に血が広がった。それでも彼は魚の選別作業に戻った。働き続けなければたたかれ続けていたからだ」

 漁船に囚人を送るというこのアイデア。もし「復活」することがあれば、囚人たちは漁船より刑務所を選ぶと訴えるべきだ。

From GlobalPost.com特約

[2015年2月 3日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米農務長官にロリンズ氏、保守系シンクタンク所長

ワールド

COP29、年3000億ドルの途上国支援で合意 不

ワールド

アングル:またトランプ氏を過小評価、米世論調査の解

ワールド

アングル:南米の環境保護、アマゾンに集中 砂漠や草
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたまま飛行機が離陸体勢に...窓から女性が撮影した映像にネット震撼
  • 4
    「ダイエット成功」3つの戦略...「食事内容」ではな…
  • 5
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    ロシア西部「弾薬庫」への攻撃で起きたのは、戦争が…
  • 8
    クルスク州のロシア軍司令部をウクライナがミサイル…
  • 9
    「何も見えない」...大雨の日に飛行機を着陸させる「…
  • 10
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 4
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 5
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 8
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 7
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 8
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 9
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 10
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中