最新記事

リベリア

エボラ対策を邪魔する根強い無知と不信

患者「解放」事件が起きたのは人々の無知ゆえ。地道な啓発活動が最悪の状況を改善する

2014年8月28日(木)15時32分
チャド・マコーディック

でっち上げ? 隔離施設を襲った集団は「エボラはない」と叫んでいた John Moore/Getty Images

 エボラ出血熱が猛威を振るう西アフリカのうち最も被害が大きいリベリアで今月16日、首都モンロビアの隔離施設が襲撃された。棍棒を振り回す暴徒が警察の警戒線を打ち破って乱入し、隔離されていた患者たちを「解放」。血の付いたシーツも含め、医療器具などを手当たり次第略奪していった。

 彼らは、病気の流行は政府などのでっち上げと信じていたようだ。当局によると、隔離施設への地元の反感が強いこともある。彼らはよそから患者が運び込まれてくることに怒っていた。

 シエラレオネ南東部のケネマの住民も同じような気持ちだろう。エボラ出血熱の流行を受けて、隔離治療拠点がすぐ近くに設けられたからだ。

 ケネマでは先月下旬、精神疾患歴のある女性が警察署に現れ、「エボラでっち上げに加担した」と主張。病院の関係者全員で仕組んだというが、本人は看護師でも何でもないと判明したため警察は相手にしなかった。

 しかし彼女は市場でも同じことを吹聴。欧米人や医療従事者が故意に感染させているなどの陰謀説が広まっていたことから、怒った人々が病院を襲撃。警官隊が出動する騒ぎとなった。

 今では、ケネマ市内の空気も一変した。「みんな本気で怖がっている」と住民のユスフ・ジョニーは言う。政府が仕組んだなどという話ではなく、病気そのものを恐れている。どの住民にとっても、知人がエボラ出血熱で命を落とすという身近な脅威となってきたからだ。

 商店主のアブ・バカル・ショーによれば、人々の生活にも影響が出ている。「交際相手にも会おうとせず、ずっと自宅にいる。ここではモンロビアのような襲撃事件は起きようがない」

祈祷師の力も利用する

 その後も緊張が続いているモンロビアで必要なのは、エボラウイルスに関する教育だ。人々の無知ゆえに襲撃事件は誘発され、流行も急拡大した。

 ケネマでは地元のミュージシャンとDJ仲間が啓発活動を始めた。大きなスピーカーを車に積み込み、人通りの多い街角に乗りつけて即興演奏。集まった人々にエボラ出血熱の症状と予防についてクイズを出す。景品はCDとTシャツだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ベトナム、26年は10%成長目標に 外的圧力でも勢

ワールド

高市氏に1回目から投票、閣外協力「逃げ」でない=維

ビジネス

中国GDP、第3四半期は前年比+4.8% 1年ぶり

ワールド

トランプ氏「大規模」関税続くとインドに警告、ロ産原
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本人と参政党
特集:日本人と参政党
2025年10月21日号(10/15発売)

怒れる日本が生んだ「日本人ファースト」と参政党現象。その源泉にルポと神谷代表インタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 2
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 3
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「実は避けるべき」一品とは?
  • 4
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 5
    ニッポン停滞の証か...トヨタの賭ける「未来」が関心…
  • 6
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 7
    ギザギザした「不思議な形の耳」をした男性...「みん…
  • 8
    【インタビュー】参政党・神谷代表が「必ず起こる」…
  • 9
    「中国は危険」から「中国かっこいい」へ──ベトナム…
  • 10
    自重筋トレの王者「マッスルアップ」とは?...瞬発力…
  • 1
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 2
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 3
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 4
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ…
  • 5
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 6
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由…
  • 7
    日本で外国人から生まれた子どもが過去最多に──人口…
  • 8
    「心の知能指数(EQ)」とは何か...「EQが高い人」に…
  • 9
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「…
  • 10
    「欧州最大の企業」がデンマークで生まれたワケ...奇…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に...「少々、お控えくださって?」
  • 4
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 5
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中