最新記事

東南アジア

カンボジア「死の弾圧」は韓国の要請か

5人の死者を出したデモ制圧作戦は、自国企業を守りたい韓国側の要請によるものと韓国大使館が発表

2014年1月8日(水)15時43分
ジェフリー・ケイン

誰のため? プノンペンで治安部隊の取り締まりを受けるデモ隊の労働者(1月3日) Pring Samrang-Reuters

 カンボジアの首都プノンペンで発生した賃上げを要求する労働者たちによるデモ。治安部隊との衝突で5人が死亡するなど大きな被害が出たが、この厳しい制圧作戦は韓国が要請したものだったという疑惑が浮上している。

 ここ数カ月、カンボジアでは欧米の大手アパレルブランド向けに生産を行っている衣料品工場で働く労働者たちによるストライキが続発していた。彼らの要求は、最低賃金を倍にすること。月80ドル程度の収入では生活できないというのが彼らの言い分だ。

 だが、カンボジア政府は先週、軍を動員してデモの制圧に乗り出した。治安部隊は中国製の小銃や警棒、鉄パイプなどを手にデモ隊への攻撃を開始。5人が死亡し、数十人が負傷した。

 彼らが働く工場で生産される衣料品は欧米諸国や日本に向けて輸出されているが、大手ブランドと労働者をつなぐ仲介業者として大きな利益をあげているのは韓国企業だ。韓国資本の企業が賃金の安い現地の労働者を雇い、先進国向けに衣料品を大量生産している。

 2012年には、韓国はカンボジアでの事業計画に総額2億8700万ドルを投資。カンボジアにとっては、中国を上回る最大の投資国だ。

 そんな韓国が、労働者デモの武力鎮圧を裏で扇動したという。韓国大使館は、過去数週間にわたって韓国企業の利益を守るためのロビー活動が舞台裏で行われてきたことを認めている。その要求の中には、残忍で実戦経験も豊富なカンボジア軍をデモ取り締まりの任務に就かせることも含まれていたという。

 韓国政府とカンボジア政府の間には、金銭的な関係を超えた幅広い分野での強いつながりがある。韓国の元大統領がカンボジアのフン・セン首相の経済顧問を務めたこともある。

 昨年7月に行われた国民議会選挙で勝利した与党カンボジア人民党に、民主主義国家として最も早く賛辞を贈ったのも韓国だった。この選挙は、人権団体などから不正行為の横行が指摘されており、労働者や野党政治家による一連のデモが激しさを増した理由の1つにもなっていた。

 言い換えれば、労働者のデモで危機に陥ったのはカンボジアの「国益」でもあったということだ。デモが過激化して工場への攻撃が激しさを増すようになると、韓国企業の利益を守ることはカンボジア政府の利益を守ることと同義となった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエル首相らに逮捕状、ICC ガザでの戦争犯罪

ビジネス

米新規失業保険申請は6000件減の21.3万件、予

ワールド

ロシアがICBM発射、ウクライナ発表 初の実戦使用

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部の民家空爆 犠牲者多数
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 2
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 3
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 4
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 5
    「ワークライフバランス不要論」で炎上...若手起業家…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    習近平を側近がカメラから守った瞬間──英スターマー…
  • 8
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 9
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 10
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国」...写真を発見した孫が「衝撃を受けた」理由とは?
  • 4
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 5
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 6
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
  • 7
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 8
    建物に突き刺さり大爆発...「ロシア軍の自爆型ドロー…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    秋の夜長に...「紫金山・アトラス彗星」が8万年ぶり…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 10
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中