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心理学貧しさがあなたの頭をニブくする
誤った判断が貧困を招くのではなく貧困自体が貧しい人々の判断を鈍らせているとしたら
貧困の連鎖 貧しさから自力で抜け出すのは難しい(ロサンゼルスで無料の食事を求めて並ぶ人々) Jason Redmond-Reuters
私が食料品を買うのは、通勤経路にあるホールフーズ・マーケットがほとんどだ。3分ほど回り道してセーフウェイで買えばもっと安く済むが、そうはしない。そのせいで、余計な金を使っているのは知っているが。
ビジネスライターの私には、ホールフーズのどの商品の価格がどれだけ高く設定されているか分かる。その価格が品質に見合っている場合と、そうでない場合があることも。
でも買い物客としてセーフウェイに行くのは、あの店のフラワートルティーヤを食べたくなったときだけ。それ以外の場合は便利さを優先する。毎月の食料品代が予算内に収まればいい。金を無駄にしているだろうが、節約に多大な時間とエネルギーを使うのは割に合わない。
これが暮らしのゆとりというものだ。貧しい人よりいいものを買い、ちょっとした便利さのためにいくらかの金を使うことができる。そのおかげで、家計の細かなことをあれこれ考えずに済む。
サイエンス誌に先頃発表された論文によれば、家計に不安を抱えていると、認知能力が大きく低下するという。研究では米ニュージャージー州のショッピングモールに来る低所得者層と、世界平均で見た貧困層に当たるインドのタミルナド州の農民からデータを集めた。するといずれの調査からも、家計のやりくりを考えるだけで認知能力が低下することが分かった。
アメリカの調査では、車を修理する人をテストした。すると高所得者や少額の修理で済む低所得者に比べ、多額の負担を強いられた低所得者の認知能力が低かった。
インドでは、サトウキビを収穫する前と後で農民の認知能力を測った。すると、収穫を終えて金が入ってくることが分かっているときのほうが収穫前よりも認知テストの成績が高かった。
「常識」とは正反対の結論
認知能力についての今回の研究結果の中で特に注目すべきなのは、貧困自体への理解に対するものかもしれない。貧しい人もそうでない人も誤った選択をすることはあるが、貧しい人は平均以上に誤った選択が多いという統計もある。そのため、貧困を引き起こすのは経済的事情より未熟な判断だという安易な結論に飛び付きがちだ。
しかし今回の研究が示しているのは、まったく逆のことだ。判断力を狂わせ、誤った選択をさせるのは貧困のほうなのだ。
アメリカの低所得者層は世界の標準では貧しいといえないことがほとんどなので、途上国で成功した貧困対策もアメリカでは成果が上がらないことが多い。だから今回の研究で、アメリカとインドで同じ傾向が確認できたことには意義がある。
アメリカの貧困への取り組みでは、複雑な現代経済を乗り切るために必要な能力や「人的資本」という観点が強調される。すると教育に注目が集まり、学校改革や就学前教育の在り方が議論されることになる。
だが、助けが必要なのは大人も同じだ。子供と違い、大人が貧しいのは本人の問題とされがちだ。そのため貧しい大人は、金の使い道をきちんと判断できる人と見なされないことが多い。
貧困者を経済的にあまり手助けすべきではない、あるいは援助するにしても要件や資格を厳しくすべきだという認識が、貧困の問題をこじらせているのかもしれない。金銭面の心配があると、そもそも貧困から抜け出すのに必要な賢い選択ができなくなるのだから。
貧しい人が立ち直るのを助ける最善の策の1つは、彼らの貧しさを軽減してやることだ。
© 2013, Slate
[2013年10月 1日号掲載]