最新記事

朝鮮半島

韓国がもくろむ時代錯誤の「核武装論」

北朝鮮による核実験で緊張が高まっているが、アメリカの核を再配備しても抑止力は強化されない

2013年4月22日(月)16時03分
ミラ・ラップフーパー(国際政治学者)

核の傘 いざという時、アメリカとの同盟は本当に役に立つのか(訓練中の韓国軍兵士) Lee Jae Won-Reuters

 北朝鮮が先月実施した3度目の核実験は、韓国の保守派を強く刺激した。例えば与党セヌリ党の沈在哲(シム・ジェチョル)最高委員。「核には核で対抗する恐怖のバランスだけが、わが国の生存を保障する道だ」と議会で述べ、米軍の核兵器の再配備を求めた。いや、韓国自身が核武装をすべきだとの声も上がっている。

 保守派のこうした発言は初めてのことではない。北朝鮮による過去の挑発的行為に対しても同様の声があった。しかも今回は、北朝鮮からの「口撃」も一段と過激だった。北朝鮮は米韓の合同軍事演習を戦争の導火線と呼び、戦争になれば韓国は国家の終焉を見るだろうと脅した。

 韓国が不安を覚えるのは当然だ。しかし戦術核(通常兵器の延長として使われる核兵器)を現地配備する必要があるだろうか。それがどれだけ韓国の安全保障に役立つのか。もっと言えば、それでアメリカによる「核の傘」はどれだけ広がるのか。

 東西冷戦の終結を受け、アメリカ政府は91年に朝鮮半島から核兵器を撤収。一方で韓国と北朝鮮は非核化共同宣言に署名した。だが度重なる北朝鮮の核実験によって、この合意はただの紙切れになった。さらに北朝鮮は、米韓軍事同盟の存続を根拠に韓国は今もアメリカの核の傘の下にあるとし、これは非核化宣言違反だと主張している。

 実際、韓国が重大な攻撃を受ければ、アメリカは米本土からであれ潜水艦や爆撃機からであれ、戦略核(特定の戦略目標の攻撃に使われる核兵器)で応戦できる。

 それでも韓国側には、自分だけが割を食ったという思いがある。米軍の核撤去を受け入れたものの、北朝鮮は今も核開発を続けて、挑発を繰り返しているからだ。アメリカは韓国の安全を断固として守るという認識を強く示しているが、当の韓国民は懐疑的だ。

切り札を持ちたい韓国

 韓国のアサン政策研究所が昨年行った調査では、韓国が北朝鮮から攻撃を受けた際、アメリカが核を使って韓国を守ってくれると回答した国民は48%にすぎなかった。アメリカに対するこの戦略的不信を解消するには核の再配備が必要だ、との見方は韓国政府高官にもある。

 核の抑止力を伴う同盟関係には大抵の場合、こうした信頼の問題が付きまとう。アメリカ本土が報復を受けるリスクを引き受けてまで、アメリカ大統領は韓国のために核兵器を使う決断を下すだろうか。そこまでして韓国を守ってくれるのか。そんな疑念である。

 アメリカの「核の傘」と言っても、韓国領内にアメリカの核兵器があるわけではない。戦略核は米本土か、どこか海の下にしか存在しない。この事実が韓国民の疑念を深めているという指摘もある。せめて戦術核でも韓国内にあれば、北朝鮮から核攻撃を受けたら即座に応戦ができる。同盟国への攻撃はアメリカへの攻撃と見なすなどという理屈をつけるまでもなく、核兵器を使えるわけだ。

 再配備を望むもう1つの理由は、韓国が北朝鮮に対し「アメとムチ」の政策を取りたがっていることだ。北朝鮮の核実験に対する制裁として、今の韓国は食糧支援というカードしか持っていない。だから「アメ」だけでなく、核の再配備によって「ムチ」を振りかざせるようにして、北朝鮮に核開発を断念させたい。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、NATO支持再確認 「必要なときに米を

ワールド

トランプ氏との会談望む、同盟国から安全保証の明確な

ビジネス

米12月ISM非製造業指数、54.4に上昇 雇用が

ワールド

ベネズエラ原油、米に無期限供給へ 制裁も緩和か=報
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:AI兵士の新しい戦争
特集:AI兵士の新しい戦争
2026年1月13日号(1/ 6発売)

ヒューマノイド・ロボット「ファントムMK1」がアメリカの戦場と戦争をこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 3
    「グリーンランドにはロシアと中国の船がうじゃうじゃいる」──トランプの介入口実にデンマーク反発
  • 4
    日本も他人事じゃない? デジタル先進国デンマークが…
  • 5
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した─…
  • 6
    マドゥロ拘束作戦で暗躍した偵察機「RQ-170」...米空…
  • 7
    トランプがベネズエラで大幅に書き換えた「モンロー…
  • 8
    トイレの外に「覗き魔」がいる...娘の訴えに家を飛び…
  • 9
    衛星画像で見る「消し炭」の軍事施設...ベネズエラで…
  • 10
    若者の17%が就職できない?...中国の最新統計が示し…
  • 1
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチン、その先は袋小路か
  • 2
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 3
    中国軍の挑発に口を閉ざす韓国軍の危うい実態 「沈黙」は抑止かそれとも無能?
  • 4
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 5
    眠る筋力を覚醒させる技術「ブレーシング」とは?...…
  • 6
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 7
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 8
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 9
    アメリカ、中国に台湾圧力停止を求める
  • 10
    感じのいい人が「寒いですね」にチョイ足ししている…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 6
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 7
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 8
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 9
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチ…
  • 10
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中