最新記事

エネルギー

福島に学べない中国原発の危うさ

一時は慎重姿勢だった中国が、再び原子力エネルギー増産を宣言し原発建設に動き始めたが

2012年12月27日(木)14時03分
ザカリー・ケック

海のリスク 沿海部の原発建設は安全なのか?(浙江省の秦山原子力発電所) Reinhard Krause-Reuters

 中国は今後数年にわたって原子力エネルギーを増産する──中国原子力産業協会の理事長は先週、広州で開かれたセミナーでこう宣言した。張によると、中国は15年までに原発による発電量を42ギガワットに拡大する。これは全世界の原発発電量の約10%に当たる数値だ。

 中国では現在、6カ所の原発で15基の原子炉が稼働しており、その発電量は12・5ギガワット。国内の総発電量の1・8%を占め、世界の原発発電量の約3・5%に当たる。張は15年か「その数年後」までには41基の原発が稼働し、さらに20基が建設中になっている予定だと言う。

 もっとも10月に中国政府が出した白書では、15年までの目標値は40ギガワット。中国の第12次5カ年計画(11年〜15年)における15年までの目標値50ギガワットを下回っている。

 その主な原因は、昨年の福島第一原発の事故だ。中国政府は事故から1年余り、原発建設を一時停止するなど核エネルギー政策に慎重だった。だが今年6月に停止期間が終わると、従来どおり原発推進の道を選んだ。ただし中断期間があったためか、50ギガワットという目標値は見直さざるを得なかったようだ。

東南アジアと共通のジレンマ

 原子力エネルギーの増産ペースを落とした中国は、福島の悲劇から十分な教訓を得ていると強調する。「中国の原発の性能は優れており、立地場所も慎重に選んでいるため、福島と同じ轍を踏むことはない」と張は語った。

 しかし、張の強気な発言には疑問が残る。中国国務院は10月、今後数年は沿海部にのみ原発建設を認めると発表した。確かに繁栄する沿海部は内陸よりも電力を必要としているが、福島が示すように海の近くの原発は津波や台風の被害を受けやすい。

 この問題は経済成長のさなかにある他のアジア諸国にも重くのしかかってくる。高まる電力需要を満たすため、輸入に依存せず環境に優しい電力源として核エネルギーに目を向けるだろう。しかし一方で、事故のリスクも考慮しながらエネルギー政策の舵取りをしていかなくてはならない。

 東南アジア諸国は中国と比べ、原発の安全対策に費やす資金だけでなく人材や技術も不足している。原発の耐久性や事故対策のノウハウを提供する──中国はこうした分野でなら周辺諸国にとって「頼れる隣国」になれるのではないか。

From the-diplomat.com

[2012年12月12日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ロシア凍結資産、ウクライナ支援に早急に利用=有志連

ビジネス

NY外為市場=ドル小動き、米利下げ観測維持 CPI

ワールド

トランプ氏、貿易に焦点 習氏との首脳会談で=米高官

ビジネス

米国株式市場=主要3指数最高値、予想下回るCPI好
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
2025年10月28日号(10/21発売)

高齢者医療専門家の和田秀樹医師が説く――脳の健康を保ち、認知症を予防する日々の行動と心がけ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...装いの「ある点」めぐってネット騒然
  • 2
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した国は?
  • 3
    「宇宙人の乗り物」が太陽系内に...? Xデーは10月29日、ハーバード大教授「休暇はXデーの前に」
  • 4
    為替は先が読みにくい?「ドル以外」に目を向けると…
  • 5
    ハーバードで白熱する楽天の社内公用語英語化をめぐ…
  • 6
    「ママ、ママ...」泣き叫ぶ子供たち、ウクライナの幼…
  • 7
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 8
    シンガポール、南シナ海の防衛強化へ自国建造の多任…
  • 9
    【ムカつく、落ち込む】感情に振り回されず、気楽に…
  • 10
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 1
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 2
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 3
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 4
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 5
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 6
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...…
  • 7
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 8
    【2025年最新版】世界航空戦力TOP3...アメリカ・ロシ…
  • 9
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「…
  • 10
    「ママ、ママ...」泣き叫ぶ子供たち、ウクライナの幼…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 3
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 4
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 5
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中