最新記事

中国

アップルを揺さぶる中国「連続自殺」

iPhoneやiPadを委託生産している中国・深センの工場で従業員の自殺が続発、企業イメージを直撃しかねない

2010年5月31日(月)18時03分
ニック・サマーズ

iPhone炎上 自殺問題に関して富士康の香港オフィス前で行われた抗議活動(5月25日) Bobby Yip-Reuters

 欧米の消費者は普段、自分たちが買う高級ブランドのスニーカーや電子製品がどこでつくられたかなど、あまり考えない。しかし、一流ブランドの委託を受けている海外の工場の劣悪な労働条件がクローズアップされると、状況は一変する。過去には、ナイキやGAPなどの企業がこの問題で激しい逆風にさらされた。

 いまメディアをにぎわせている中国の台湾系電子製品メーカー、富士康の自殺多発問題も、アップルやヒューレット・パッカード(HP)、デルなどの大手企業に打撃を与えかねない。

 広東省の深センにある富士康の巨大な工場では、2010年に入って少なくとも従業員10人が自殺。このほかに、20人が自殺を図ったとされている。この工場ではおよそ40万人の従業員が寮生活を送り、アップルのタブレット型端末iPadや、デル、HP、ソニー、ノキアなどの有力メーカーの部品を製造している。

 富士康の親会社である台湾の大手電子機器メーカー「鴻海グループ」の総帥、郭台銘(クオ・タイミン)は5月27日、ジャーナリストを招いて、工場の内部を自ら案内した。労働者を劣悪な環境で働かせているという批判を払拭するのが狙いだった。しかしそのわずか数時間後に、また従業員が1人飛び降り自殺し、もう1人が手首を切って病院に運ばれた。

iPad世界デビューに水を差した?

 今回の問題は、すべての関係企業にとってPR上の危機だ。富士康はあわてて、寮の建物の周囲に安全ネットを設置。5月28日には、従業員の給料を2割引き上げると発表した。

 デル、HP、アップルは、富士康の労働環境を調査する意向を明らかにした。アップルは、同社製品の生産プロセスに関わる労働者の労働時間を最長で週60時間(残業込み)と定めていると主張。HPとデルも同様の行動ルールを下請け企業に課している。

 報道によると、富士康の従業員は、大量の注文をさばくために、長時間にわたり単純作業を強いられているという。工場の施設内にはプールや娯楽施設もあるが、疲れ切っていて利用する気になれないと、従業員たちは言う。

 自殺問題が持ち上がったのは、それこそ最悪のタイミングだった。デルは、新型のタブレット端末「ストリーク」の発売を発表したばかり。HPは、携帯情報端末メーカーのパームを約12億ドルで買収して、小型端末部門のテコ入れを進めていた最中。アップルは、iPadを世界に向けて売り出す矢先だった。

 これらの企業としては、新製品が約束する明るい未来を消費者に印象づけたい。間違っても、安い賃金で製品をつくっているアジアの労働者のことなど、消費者に連想してほしくない。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

米地裁、政府系メディアの大量解雇認めず トランプ氏

ワールド

トランプ政権、イリノイ州への部隊派遣を国防総省に要

ビジネス

英BPと仏トタル、米国事業拡大 大型開発事業に投資

ビジネス

紫金黄金国際が香港上場、公開価格を一時66%上回る
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:2025年の大谷翔平 二刀流の奇跡
特集:2025年の大谷翔平 二刀流の奇跡
2025年10月 7日号(9/30発売)

投手復帰のシーズンもプレーオフに進出。二刀流の復活劇をアメリカはどう見たか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナにドローンを送り込むのはロシアだけではない...領空侵犯した意外な国とその目的は?
  • 2
    虫刺されに見える? 足首の「謎の灰色の傷」の中から思わぬものが出てきた...患者には心当たりが
  • 3
    トイレの外に「覗き魔」がいる...娘の訴えに家を飛び出した父親が見つけた「犯人の正体」にSNS爆笑
  • 4
    こんな場面は子連れ客に気をつかうべき! 母親が「怒…
  • 5
    シャーロット王女の「視線」に宿るダイアナ妃の記憶.…
  • 6
    マシンもジムも不要だった...鉄格子の中で甦った、失…
  • 7
    コーチとグッチで明暗 Z世代が変える高級ブランド市…
  • 8
    カーク暗殺の直後から「極左」批判...トランプ政権が…
  • 9
    【クイズ】身長272cm...人類史上、最も身長の高かっ…
  • 10
    英国王のスピーチで「苦言チクリ」...トランプ大統領…
  • 1
    トイレの外に「覗き魔」がいる...娘の訴えに家を飛び出した父親が見つけた「犯人の正体」にSNS爆笑
  • 2
    日本の小説が世界で爆売れし、英米の文学賞を席巻...「文学界の異変」が起きた本当の理由
  • 3
    こんな場面は子連れ客に気をつかうべき! 母親が「怒りの動画」投稿も...「わがまま」と批判の声
  • 4
    iPhone 17は「すぐ傷つく」...世界中で相次ぐ苦情、A…
  • 5
    【クイズ】世界で1番「がん」になる人の割合が高い国…
  • 6
    コーチとグッチで明暗 Z世代が変える高級ブランド市…
  • 7
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ…
  • 8
    高校アメフトの試合中に「あまりに悪質なプレー」...…
  • 9
    ウクライナにドローンを送り込むのはロシアだけでは…
  • 10
    虫刺されに見える? 足首の「謎の灰色の傷」の中から…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 4
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 5
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 6
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 7
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 8
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
  • 9
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 10
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中