ギリシャを「植民地化」するEU
支援と引き換えにギリシャの財政政策を握った欧州連合の「ネオ植民地主義」が始まる
炎上 EUとIMFを「占領軍」とみて反発するギリシャ人もいる(5月5日、アテネの暴動で火炎瓶を投げ付けられて倒れる警官) Pascal Rossignol-Reuters
ギリシャの財政危機問題ではEU(欧州連合)とIMF(国際通貨基金)からの緊急支援が決まり、とりあえず金融市場の動揺は収まりアテネでの暴動も沈静化した。だがこの一時的な「休戦」のために支払われた対価は高かった。私はカネのことだけを言っているのではない。
私の目の前には、EU理事会のギリシャ問題に関する直近の決定の草稿がある。これは機密文書でも何でもない。一部は新聞でも報道されたし、ギリシャ議会はこの決定の一部条項に沿った法案を通過させた。これほど包括的ではないが類似の決定は既に2月に発表されている。
だがこの決定の持つ政治的重要性について指摘する声はほとんど聞かれない。これはEU官僚の手になるありふれた決定とは訳が違う。血みどろの戦争の後、敗戦国の元帥が降伏文書に署名しているようなものだ。
EUとIMFは巨額の資金を投じてギリシャを救うだろう。それと引き換えに、ギリシャはふくれあがった財政赤字の削減を約束するだけでなく、今年6月までに17もの法改正や財政改革を行なう約束をすることになるだろう。
EU理事会の決定によれば、ギリシャは公務員と年金受給者向けのボーナスを削減し、ガソリンやタバコ、酒への課税を強化し、地方自治体の運営コストを削減し、ベンチャー企業に関する規制を緩和するための法律を制定「しなければならない」
誰も知らなかった巨大な権限
17の課題が片付いたら、今度は9月までにギリシャは年金受給開始年齢を65歳に引き上げる(現在は平均61歳)など、新たに9つの要件を満たさ「なければならない」。
12月までにギリシャはさらに、国民健康保険の利用者にはジェネリック医薬品の処方を義務付けるなど12の対策を実施し「なければならない」
11年の3月、6月、9月を期限とするさらなる課題も決められた。もしギリシャ政府が国家運営に必要な資金をもらい続けたいと思うなら、こうした対策のすべてを法制化していかなければならない。
こうした措置の必要性について疑義をはさむ気はまったくない(出遅れ感は否めないが)。こうでもしなければギリシャ議会を説得して緊縮財政のための法案を可決させることなどできないだろう。
ギリシャでは激しいデモが政治的意見を表現する方法として定着している。また政党間の対立のせいで、政権交代のたびに前政権のやったことは帳消しにされてしまう。こんな政治風土では、年金受給開始年齢を4歳も引き上げたり、公務員のボーナスを廃止したりするのは容易なことではない。
それでもこの決定は、従来には見られなかった側面を持っている。EU加盟国は常に、主権の一部をEUにゆだねるよう求められてきた。だがギリシャにはもはや、ろくな主権は残っていない。
ギリシャが何を「しなくてはならない」かを決めたのはEUの側だった。加盟国に対してEUがこれほどの権限を持っていたとは、ギリシャの人々はもちろん、誰も知らなかっただろう。
外国の押し付けに国民は従うか
近代においてギリシャはオスマン・トルコやナチス・ドイツといった外国による占領を経験した。すでにギリシャ人の中からは、EUとIMFという新たな占領軍に抵抗せよと同胞に訴える声が上がっている。
抵抗運動は暴動よりもっと見えにくい形を取るだろう。アテネで自宅にプールがあると税務当局に申告しているのは364人。だが衛星写真を調べたところでは、アテネには1万6974個ものプールが存在するという。
もしギリシャ人が今回の税制改革や法改正を外国から押し付けられたものだと考えたら、彼らは黙って新たな制度に従うだろうか。