最新記事

アメリカ社会

マリフアナ合法化の損得勘定

カリフォルニア州が大麻合法化を目指している。州財政が改善するとの期待もあるが……

2010年5月10日(月)10時00分
ジェシカ・ベネット

毒か薬か カリフォルニアではマリフアナ合法化をめぐる議論が高まっている Robert Galbraith-Reuters

 カリフォルニア州オークランドの中心部の一角に、住民が「オークステルダム」と呼ぶ地区がある。

 マリフアナ(乾燥大麻)の個人使用などが訴追されないオランダのアムステルダムをもじって付けられた名前だ。寂れた地域にひっそりと存在するその「マリフアナ解禁区」では、外の世界より時間が少しだけゆっくりと流れる。

 カリフォルニア州では医療目的に限ってマリフアナ使用が合法化されており、実際にオークランドなど多くの地域で使用が許されている。オークステルダムのコーヒー店「ブルースカイ」でコーヒーを頼むと20分は待たされるが、マリフアナなら5分で手に入る。

 別の店に入れば、それほど人目をはばかるふうでもない裏部屋にマリフアナの煙が濃く立ち込めて、ピンク・フロイドのアルバム『狂気』の曲が流れている。

 ひときわ異彩を放っているのがオークステルダム大学。リチャード・リー(47)が運営する「マリフアナ専門学校」だ。マリフアナ合法化運動の中心的存在である彼は、オークランドの中心部に「マリフアナ産業」という有望なビジネスを誘致した。

 リーはカリフォルニア州でマリフアナの使用合法化に関する住民投票を行うよう、先頭に立って求めてきた。その努力のかいあって先日、11月に住民投票が実施されることが決まった。

 リーはオークランドだけでなく州内の別の地域でも、マリフアナ合法化運動が盛んになることを望んでいる。

 住民投票でリーたちの運動が勝利すれば、カリフォルニアはマリフアナが合法化される全米初の州になる。そうなれば、21歳以上なら約28グラムまでは栽培と所持が認められるようになるだろう。

 地方自治体にはマリフアナ取引の規制や課税の権限が与えられる。数百億ドルの赤字を抱えるカリフォルニア州のアーノルド・シュワルツェネッガー知事も合法化に関する「議論」を歓迎している。

医療用は「野放し」状態

「合法化に目くじらを立てる人はもういない」とウィリー・ブラウン前サンフランシスコ市長は最近、新聞への寄稿記事で述べた。「(合法化されれば)大麻栽培者とそれに課税する自治体に利益が転がり込むだろう」

 ハーバード大学の経済学者ジェフリー・ミロンの試算によると、国が大麻取り締まりに要する費用は年間130億ドル。逸失税収は70億ドルに上るという。

 今年オークランドでは全米で初めて特別大麻物品税を施行。売り上げ1000ドルごとに18ドルを徴収する。これによる今年の税収は最高100万ドルと市は見込んでいる。

 州レベルで合法化されれば、もっと大規模な効果が期待できるとリーは言う。「オークランドでは実際、雇用が生まれ、街に活気が戻っている」

 カリフォルニア州では96年に医療用マリフアナが合法化された。だがこの「医療」が曲者だ。18歳以上の人が不安障害などの理由で医師から許可をもらえば、簡単にマリフアナを入手できる。「医者から許可をもらうのは難しくない」と、マリフアナを扱う店で働く従業員は本誌に語る。

 連邦法ではマリフアナの栽培と所持は違法だ。米国医師会の反対にもかかわらず37年に禁止された。

 エリック・ホルダー司法長官は昨年2月、司法省は州法によって認可された医療用マリフアナの販売店を今後は強制捜査しないと発表。反対派を呆然とさせた。

 一方、ホワイトハウスの麻薬管理政策局のリチャード・ギル・カーリカウスキー局長は今月初め、サンノゼの警察署長らへの訓示の中で合法化に反対だと発言した。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

イラン、イスラエルへの報復ないと示唆 戦火の拡大回

ワールド

「イスラエルとの関連証明されず」とイラン外相、19

ワールド

米石油・ガス掘削リグ稼働数、5週間ぶりに増加=ベー

ビジネス

日銀の利上げ、慎重に進めるべき=IMF日本担当
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ公式」とは?...順番に当てはめるだけで論理的な文章に

  • 4

    便利なキャッシュレス社会で、忘れられていること

  • 5

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 6

    「韓国少子化のなぜ?」失業率2.7%、ジニ係数は0.32…

  • 7

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 8

    ダイヤモンドバックスの試合中、自席の前を横切る子…

  • 9

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 10

    あまりの激しさで上半身があらわになる女性も...スー…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人…

  • 5

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 6

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 7

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 8

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 9

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 10

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中