最新記事

アフガニスタン

アフガン脱出のカギは国軍の確立だ

アフガン問題を話し合う国際会議の宿題リストは笑ってしまうほど長いが、世界の内戦の歴史を振り返れば、平和にまず必要なものははっきりしている

2010年1月28日(木)17時37分
アンドルー・バスト

制服に誇りを アフガニスタンではこの数カ月、軍や警察への入隊志願が急増している(写真は1月18日、首都カブールで発生した同時襲撃テロの処理に当たる警官) Omar Sobhani-Reuters

 1月28日、アフガニスタンを救う総合的な最終手段を話し合う国際会議がロンドンで開催され、NATO(北大西洋条約機構)加盟国を含む60カ国以上の外相級閣僚とアフガニスタンのハミド・カルザイ大統領らが顔をそろえる。

 国際社会の目標リストは笑ってしまうほど長い。タリバンを倒し、和平を妨害する者を殺害し、麻薬産業を根絶させ、地元主導の統治を確立させ、経済成長に火をつける。医療や道路建設、学校、女性の権利問題は言うまでもない。さらに、パキスタンの安定化もある。

「目の前にある多くの困難について幻想をいだいてはいない」と、国務省が先週発表した新たな民生戦略のなかでヒラリー・クリントン米国務長官は書いている。

 全体的に見れば、この戦略は適切だ。ただし、われわれは物事に優先順位をつける必要がある。そして、どんな取り組みをするにしても、まずはアフガニスタン国軍を確立することが優先だ。

 武力行使の権限を一元化しないかぎり、アフガン復興の見込みはない。過去60年間に勃発した数々の内戦をみれば、それは明らかだ。

入隊志願者が3カ月で4倍に

 ハーバード大学のモニカ・トフト准教授は新著『平和を確保する』で、過去60年間に起きた内戦(ルワンダやコロンビア、ソマリア、スリランカ、コンゴ共和国、スーダン、レバノンなど)を分析。永続的な平和を構築するには治安部門の改革(軍隊と地元警察の組織化を指す曖昧な表現だ)が不可欠なのに、その点がないがしろにされるケースがあまりに多いと指摘した。

「アフガニスタン国軍の整備が安定化の鍵だ」と、トフトは言う。それだけでは不十分だが、それなくしてはどんな和平も短命に終わることは、過去の無数の例が証明している。

 有効な軍隊がなければ、戦争を終結させるのは難しい。リベリアのケースを見てみよう。

 リベリアではこの20年間に2度の血塗られた内戦が勃発した。交渉によって14回も和平がもたらされたが、軍が解散したり、再訓練を受けることはなく、独裁的なチャールズ・テーラー大統領の統治下で虐殺が続けられた。

 一方、12年間内戦が続いたエルサルバドルでは「内戦終結後、治安部門の改革に多大な努力が行われた」と、トフトは言う。そして、平和が訪れた(リベリアも現在では、国連などが治安部門の改革に尽力したおかげでようやく平和が保たれている)。

 では、アフガニスタンは? 実はこの数カ月間、国軍や警察入りを志願するアフガニスタン人は異例のペースで増えている。

 アフガニスタンでのNATOの新兵訓練を取り仕切るウィリアム・コールドウェル中将は先日、米議会に対して、昨年11月に月間3000人だった国軍の新兵採用数が、今年1月には4倍近い1万1000人に急増したと報告した。

給料アップで新兵を「買収」

 大きな要因はNATOが給与を引き上げたことだが、コールドウェルは別の要因も指摘した。バラク・オバマ大統領の「増派した後に縮小する」方針を聞いたアフガニスタンの司令官たちが、アメリカが近い将来、撤退することを悟ったというのだ。

「コールドウェル中将にその点を強く追及した」と、上院軍事委員会会長のカール・レビン上院議員は25日に報道陣に語った。「率直に言って、軍関係者からあれほど前向きな話を聞けるとは思っていなかったから」
 
 ハイペースでの新兵採用が今後も続くとすれば、NATOの新兵訓練に関する目標は達成されるかもしれない。8年に及ぶ占領中に、NATOはすでに10万人規模の常設軍を育成しており、今年10月までに13万4000人、来年10月までに17万1600人に増やしたいという目標を掲げている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米ブラウン大銃撃、拘束の「重要参考人」釈放へ 事件

ビジネス

防衛費増額、国の要請に基づき準備と対応進める=三菱

ビジネス

中国万科、18日に再び債権者会合 社債償還延期拒否

ビジネス

中国11月鉱工業生産・小売売上高、1年超ぶり低い伸
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の展望。本当にトンネルは抜けたのか?
  • 2
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジアの宝石」の終焉
  • 3
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 4
    極限の筋力をつくる2つの技術とは?...真の力は「前…
  • 5
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 6
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 7
    トランプが日中の「喧嘩」に口を挟まないもっともな…
  • 8
    大成功の東京デフリンピックが、日本人をこう変えた
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 3
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 6
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 7
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 8
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 9
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 10
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中