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ハイチ大地震は「神の罰」か

相次ぐハイチの苦難をブードゥー教のせいにしたテレビ伝道師に反論する

2010年1月19日(火)17時33分
リサ・ミラー(宗教問題担当)

神学論争 ほぼすべてのハイチ人がキリスト教徒だが、半数はブードゥー教の儀式も行う(写真は「死者の日」の儀式、09年11月) Eduardo Munoz-Reuters

 世界の国を旧約聖書に登場する人物に例えるとしたら、ハイチは間違いなく神からの試練にさらされるヨブだ。

 ハイチは西半球で最も貧しい国で、人口の半分は1日1ドル以下で生活している。森林の98%が伐採されたため、ハリケーンで洪水が起きるとひとたまりもない。2008年には、4週間に4度のハリケーンが襲い、百万人が家を失った。乳幼児死亡率もアフリカの多くの国を上回っており、下痢や肝炎、腸チフス、デング熱、マラリア、レプトスピラ症などが蔓延している。

 それだけではない。ハイチの政治史は悲劇に満ちている。例えば、フランソワ・デュバリエ大統領の独裁下にあった1960年代には、3万人以上が暗殺されたり拷問されたりした。
 
 そして1月12日、ハイチを大地震が襲った。10万人が死亡したともいわれるこの悲劇を見れば、信仰心の厚い人は神義論上の疑問を感じずにはいられないだろう。

 神が世界を操っているのなら、なぜ無実の人を苦しませるのか。自身の不幸を嘆いたヨブの言葉を一部言い換えれば、神はなぜ「貧困にあえぐ人々を大嵐に巻き込み、理由もなくさらに苦しめるのか。神は人々に息をつく間も与えない」。

独立の際に「悪魔と契約した」?

 過激な発言で知られるアメリカのテレビ伝道師のパット・ロバートソンに言わせれば、その答えは簡単だ。ハイチの人々がブードゥー教を信仰しているため神の罰が下ったのだという。

 ハイチではフランスの統治下にあった1791年、黒人奴隷による反乱が勃発し、その後独立を果たした。ロバートソンは先週、自身が運営するキリスト教系テレビ局の番組内で、ハイチの人々はフランスから独立する際に「悪魔と契約した。だからそれ以来呪われ、次々に災難に見舞われている」と発言した。

 このハイチ革命の直前、反乱軍はボア・カイマンの森に集まり、血の誓いを交わした。「風が悲しげな音を奏でていた」と、ハイチ人の歴史を記した『革命による自由』に書かれている。「ブードゥー教の太鼓の音に合わせてゆっくり踊る男たちの上に、暗い空から激しい雨が振り注いだ」

 ハイチ人にとって、このボア・カイマンの物語は独立を象徴する大切なもの。今ではほぼすべてのハイチ人がキリスト教徒だが、半数はアフリカに起源をもつ祖先の信仰を守り、ブードゥー教の儀式も行っている。
 
 ロバートソンの言い分は、偏狭で悪意に満ちている。彼はモーゼの十戒の第一戒「あなたには、わたしのほかに、ほかの神々があってはならない」を振りかざし、神は自分に従わない者に対して、洪水などの災害をもたらしていると主張する。

 だが、この主張はあまりに原理主義的で、不親切で独りよがりだ。アウグスティヌスの時代から哲学者が取り組んできた苦難をめぐる神学論争の歴史を無視しており、明らかに時代遅れでもある。

 西洋の宗教的伝統では、人間が他人の罪をとがめたり、罪の重さを量ったりすることはできない。「ハイチ人が罪深いせいで地震に見舞われたのなら、なぜロバートソンは地震の被害に合わないのか」と、ノースカロライナ大学の聖書研究者バート・アーマンは反論する。

『なぜ善人に不幸が起きるのか』の著者でラビ(ユダヤ教指導者)のハラルド・クシュナーも、「神の意思を読み取れると考えるのは不遜の極みだと思う」と語る。

無心論者に転じる人が増えている

 思慮深い聖職者は今後数週間に渡り、答えを探して苦しむだろう。「本当に賢い人なら、神は神秘的で、人間がすべてを説明することはできないと言うだろう」と、アーマンは言う。

 地震は悪魔の仕業だと答えたり、死者は天国でようやく心の平穏と休息を手に入れられるのだから、不幸の中にも幸せはあると主張する人もいるだろう。

 ラビのクシュナーに言わせれば、自然災害は神の力が及ばない領域だ。理不尽で説明のつかない苦難に直面したときに重要なのは、信仰を守り、苦しんでいる人々を助けること。「神の意思はわれわれに災害をもたらすことではなく、乗り越えられる災害をもたらすことだ」と、クシュナーは言う。

 ちなみに、ヨブ記に関しても、大半の学者がそうした見解にたどり着いている。「神秘的な神とともに生きる信心深い生活の奥底に解決策がある」と、ニュー・オクスフォード注釈つき聖書の解説にも書かれている。

 もっとも、無心論者にとっては、「なぜ神は善人を苦しめるのか」という神義論は強力な武器だ。実際、無実の人々が苦しむ様子を見て、多くの信者が信仰を捨てている。

 アーマンもその一人だ。長年キリスト教徒として生きてきたが、「強大で慈愛に満ちた神が世界を支配しているのに、なぜこんなことが起きるのかという疑問に答えられなくなってしまった。古くからの問題で、多くの答えがあるが、どれも違うと思う」

 それでも、私たちは苦しむ人を助け、祈るのを止めることはないだろう。

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