最新記事

中東

ビンラディンに推薦されたわが著書

ユダヤ・ロビーについての本を宣伝したテロリストの見え透いた意図

2009年9月17日(木)20時28分
スティーブン・ウォルト(ハーバード大学教授)

迷惑な推薦人 14日の「声明」で反イスラエル感情を煽ろうとしたビンラディン(写真は07年7月とされる映像) Reuters TV-Reuters

 このところ、友人にも同僚にも同じことばかり聞かれる。ウサマ・ビンラディンに自著の宣伝をしてもらった感想は、というのだ。(訳注:14日にインターネット上で公開された音声のみの声明のなかで、ビンラディンはウォルトとシカゴ大学のジョン・ミアシャイマー教授が書いた『イスラエル・ロビーとアメリカの外交政策』に言及した)。

 普通なら自分の著作に対する賛辞はうれしいものだ。だがビンラディンの過去の行い、そして彼が今どんな集団を率いているかを考えれば、今度ばかりは話が別だ。

 ともかく、この件に関してはいくつか言っておきたいことがある。

 まず、ビンラディンはアメリカにおける強力な「イスラエル・ロビー」の存在について語ったが、これは目新しいニュースではない。引用元はわれわれの本ではなく、「イスラエルロビーからの圧力ほど強い圧力を受けたことはない。米議会で圧倒的な影響力をもつ集団だ」と書いた、故バリー・ゴールドウォーター上院議員の回顧録でもよかったかもしれない。

 ニュート・ギングリッチ元下院議長は、ロビー団体「米・イスラエル広報委員会(AIPAC)」を「この惑星で最も効果的な総合利益団体」と呼んだし、リチャード・ゲッパート前民主党下院院内総務もAIPACの年次総会で「あなた方の一貫した支持がなければ、今の米イスラエル関係もない」と言っている。

 いっそハーバード大学のアラン・ダーショウィッツ法学教授を引用する手だってあった。何しろ彼は著書のなかで、「私の世代のユダヤ人はもしかすると、民主主義の歴史のなかで最も効果的な資金集めとロビー活動の一部になったかもしれない」とまで書いているのだから。

 要するに、何もわれわれの本を引き合いに出さなくても、ビンラディンはアメリカの中東外交に対するイスラエル・ロビーの強い影響力について語ることはできたのだ。

手っ取り早く支持を集める方法

 次に、なぜビンラディンはイスラエルに対するアメリカの支援や、その支援を取り付けるためのイスラエル・ロビーの役割について、世間の注意を引こうとしたのか。

 それは彼が(他の多くの人々と同様に)、イスラエルに対してアメリカが無条件に与えてきた支援とパレスチナに対するイスラエルの乱暴な扱いが、アラブやイスラム世界において大いなる怒りの源泉になっていると信じているからだ。

 これもビンラディンが独自に編み出した見方とは言いがたい。

 9・11テロに関する独立調査委員会は報告書で、「アラブやイスラム世界全域における世論が、主としてイスラエルとパレスチナの紛争に関するアメリカの政策に依拠しているのは事実だ」と指摘している。

 つまりこの問題が支持集めに効果的であることをビンラディンは知っているのだ。

 3つ目に言いたいのは、現状にどう対処すべきかについてのわれわれの考えは、ビンラディンとは大きく異なるということだ。

 ビンラディンは中東のあらゆる国々の政府(イスラエルに限らず)を打倒しようという壮大な(そしてむなしい)夢のために、何ら罪のない人々を標的に卑劣な攻撃を仕掛けている。彼は目的達成のためなら、イスラム教徒であれキリスト教徒であれユダヤ教徒であれ無神論者であれ、誰でも喜んで犠牲にする。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏の出生地主義廃止に差し止め命令、米連邦地

ビジネス

NY外為市場=ドル小幅安、トランプ氏の利下げ要求に

ワールド

トランプ氏、FRBが自らの金利巡る発言聞くと期待 

ワールド

FRB、サイトから多様性の項目削除 トランプ氏の就
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプの頭の中
特集:トランプの頭の中
2025年1月28日号(1/21発売)

いよいよ始まる第2次トランプ政権。再任大統領の行動原理と世界観を知る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    戦場に「杖をつく兵士」を送り込むロシア軍...負傷兵を「いとも簡単に」爆撃する残虐映像をウクライナが公開
  • 2
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のアドバイス【最新研究・続報】
  • 3
    日鉄「逆転勝利」のチャンスはここにあり――アメリカ人の過半数はUSスチール問題を「全く知らない」
  • 4
    いま金の価格が上がり続ける不思議
  • 5
    煩雑で高額で遅延だらけのイギリス列車に見切り...鉄…
  • 6
    「後継者誕生?」バロン・トランプ氏、父の就任式で…
  • 7
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 8
    欧州だけでも「十分足りる」...トランプがウクライナ…
  • 9
    【トランプ2.0】「少数の金持ちによる少数の金持ちの…
  • 10
    トランプ就任で「USスチール買収」はどう動くか...「…
  • 1
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のアドバイス【最新研究・続報】
  • 2
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性客が「気味が悪い」...男性の反撃に「完璧な対処」の声
  • 3
    戦場に「杖をつく兵士」を送り込むロシア軍...負傷兵を「いとも簡単に」爆撃する残虐映像をウクライナが公開
  • 4
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 5
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 6
    日鉄「逆転勝利」のチャンスはここにあり――アメリカ…
  • 7
    被害の全容が見通せない、LAの山火事...見渡す限りの…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 10
    「バイデン...寝てる?」トランプ就任式で「スリーピ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のアドバイス【最新研究・続報】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 9
    中国でインフルエンザ様の未知のウイルス「HMPV」流…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中