最新記事

アフリカ

アフリカを襲うメタボの恐怖

飢餓に苦しむアフリカに「肥満」が増えている。健康に悪影響を与えるとの認識が低いため、心臓病などが増加する懸念も

2009年8月28日(金)17時14分
マシュー・バーマン

飢餓と肥満の二重苦 アフリカでは太めの黒人女性が「魅力的」とされている Siphiwe Sibeko-Reuters

 アフリカの健康問題を語るとき、「肥満の蔓延」を思い浮かべることはまれだろう。真っ先に思いつくのは、HIV(エイズウイルス)やマラリアのような感染症か、飢餓や栄養不良だ。

 だが実際、サブサハラ地域(サハラ砂漠以南のアフリカ)ではここ20年の間に肥満が急速に拡大している。国際肥満学会によると、南アフリカだけでも黒人の64%、白人の50%が太り過ぎか肥満体だという。ウガンダ心臓協会は、肥満が関係する心臓疾患が20年までにサブサハラ地域における最大の死因になると予測する。

 問題を複雑にしているのは、肥満は魅力的ではないにしても、体に悪いという通念がないことだ。

 もっとも、アフリカで飢えに苦しむ人がいないくなったわけではない。「この地域は、いわゆる『二重の苦しみ』の時代に突入したのかもしれない。一方では栄養不良に苦しみ、他方で肥満が増加している」と、ハーバード大学のエデュアルド・ビリャモル助教授(国際栄養学)は言う。

 アフリカでは栄養不良――飢餓による栄養不足と、安価な食べ物や揚げ物の食べ過ぎ――のパンデミック(病の大流行)が広まっている。このダブルパンチの大きな原因は、都市化の加速だ。労働の場が地方から都市部に移るにつれて、多くのアフリカ人が健康を害するようになっている。

問題は「太り過ぎはいいことだ」という文化

 コペンハーゲン大学の教授で国際肥満学会の会長を務めるアーン・アストラップは、地方で暮らす人々は身体的な労働を多くこなし、たくさん歩くことに慣れていると指摘する。健康にいい穀物や果実といった食物にも恵まれている。だが都市部では、エネルギー消費の少ない新しい労働形態が生まれ、トランス脂肪酸がたっぷりの揚げ物や安い肉もそこら中で手に入る。

 しかし、サブサハラ地域に住む多くのアフリカ人たちは膨張するウエスト周りを気にしていないようだ。それどころか、太めなのは良いことだと一般的に考えられている。肥満問題を扱う国際機関IOTFのフィリップ・ジェームズ議長によれば、アフリカでは「豊かさと権力が体のサイズに反映する」。言い換えれば、たとえ不健康でも、太ければ太いほどどいいのだ。

 エイズも肥満を甘受している驚くべきもう1つの要因だ。アフリカ中に蔓延するエイズは「やせる病」とも呼ばれ、体重の減少に密接に結び付いている。そのため太っていることは「エイズにかかっていないことの証明」になると、ジェームズは指摘する。HIVに感染していないことを示すために、意図的に体重を増やす人もいるという。

 肥満をよしとする文化は、女性に特別な代償を強いる。コペンハーゲン大学のアストラップによれば、特に黒人女性は肥満体を「美しくて魅力的」だと考えている。そのため、南アフリカの18~65歳の黒人女性の75%は太り過ぎか肥満体という状態だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、就任初日に関税導入せず 通商関係の検証

ビジネス

「安心して投資できる環境を」、トランプ大統領就任で

ワールド

米国は「パナマ運河取り戻す」、トランプ氏就任演説で

ワールド

トランプ大統領、「政府効率化省」設置正式表明 複数
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプの頭の中
特集:トランプの頭の中
2025年1月28日号(1/21発売)

いよいよ始まる第2次トランプ政権。再任大統領の行動原理と世界観を知る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性客が「気味が悪い」...男性の反撃に「完璧な対処」の声
  • 2
    被害の全容が見通せない、LAの山火事...見渡す限りの焼け野原
  • 3
    メーガン妃とヘンリー王子の「山火事見物」に大ブーイングと擁護の声...「PR目的」「キャサリン妃なら非難されない」
  • 4
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 5
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 6
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 7
    台湾侵攻にうってつけのバージ(艀)建造が露見、「…
  • 8
    本当に残念...『イカゲーム』シーズン2に「出てこな…
  • 9
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 10
    身元特定を避け「顔の近くに手榴弾を...」北朝鮮兵士…
  • 1
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性客が「気味が悪い」...男性の反撃に「完璧な対処」の声
  • 2
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 3
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 4
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 5
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 6
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀…
  • 7
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 8
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 9
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
  • 10
    中国でインフルエンザ様の未知のウイルス「HMPV」流…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中