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ビジネス「明瞭会計」と「オリジナル」が人気の秘密、アートのオンライン販売の可能性
(smallrunart インスタグラムより)
<手軽に購入できるのは複製品だけ。本当はオリジナルのアート作品が欲しいけれど...そんな需要を捉え、二人の女性がビジネスを立ち上げた>
シアトルのテクノロジー系専門メディアGeek Wireによると、昨年末、シアトル在住の女性二人がスモールラン(Small Run)という企業を立ち上げた。地元のアーティストによるオリジナルアート作品を、平均250~1000ドル(約2万7500~11万円)で消費者向けにオンライン販売する会社だ。
ローカルなオリジナルアートを手頃な価格で
これまで一般的に、自宅やオフィスに飾るアートといえば、ギャラリーで高価な作品を購入するか、著名アーティストの作品の大量生産された複製作品を買うしかなかった。しかし、アートギャラリーは敷居が高く、アート作品の価格に対する知識と経験無しには気軽に手にしにくい上、価格に関しては一般の人には不明瞭な点が多い。
一方で、アートを手にしたいという需要は確実にある。そこに目を付け、自身がビジュアルアートの作家でもあるリビー・L・ガーバーと、元マイクロソフトの弁護士で真剣にアートを学ぼうと思っていたサラ・ワードの二人は、手軽に、それでいて他であまり目にすることのないアートを楽しみたい人に向け、手頃な価格帯のオリジナルアートをオンライン販売するこの事業を起こした。
「多くのアートギャラリーは作品の値段を公表することを嫌がる。私たちはとにかく手軽に分かりやすい価格で、地元のアーティストが作る作品を購入できるようにしたいと思った」と語るガーバーは、現在スモールランが取り扱う7人のローカルアーティストの一人でもある。
ビジネスモデルは業界の仕組みを継承
米国の一般的なアートギャラリーにはいくつか種類があるが、簡単に分けるとコマーシャルギャラリー、コープギャラリー、アーティストギャラリーの3つになる。
コマーシャルギャラリーは、独自の顧客リストとマーケティング・PRなどの販売力を持つオーナーが、アーティストの作品をキュレートし、販売するケース。一方のコープギャラリーは、アーティストたちが集まってギャラリースペースを共有し、作品販売やマーケティングもすべて手分けして自分たちで行う。アーティストギャラリーは単独のアーティスト自らがスペースを借りるまたは購入し、自分の作品の販売を行う。
それぞれの販売手段には、良い点と悪い点があるのだが、購入する側の目線に立つと、自分のテイストにあった作品を、わかりやすい価格で手に入れられることに越したことはない。スモールランは、創業者であるガーバー自身がアーティストである点も踏まえ、アーティスト、そして購入する顧客共にウィン=ウィンになる仕組み作りを考えたという。
サイトを見ればわかるが、作品はそれぞれオリジナル作品あるいは、高品質のシルクスクリーン印刷した複製のいずれかを選ぶことができ、さらに予算別にリストにされている。また、スモールランからアートの紹介を受けたい場合はサイト経由でリクエストをすることも可能。例えば、利用者が自分の部屋の写真を送ったり大きさなどを知らせると、おすすめの作品を紹介するというサービスを無料で行なっている。
現在は一般的なアートギャラリーの通常のギャランティといわれている、アーティストとギャラリーの取り分が50%対50%というビジネスモデルを導入している。アーティストには抽象画から、風景画、イラストレーションなどバラエティーに富んだシアトル在住の7人を選出している。今後はさらにB to Bのビジネス展開についても検討しているという。
オンラインアート販売は広がるカテゴリー
手軽で直接消費者にアピールができるオンラインというチャネルは、アート販売の世界で米国国内だけでなく世界規模で増えているようだ。アートとマーケティングの専門メディア、アート・プラス・マーケティングは、15のおすすめアート販売サイトを提示している。このなかにはアート画像をマグカップやステッカーなどに商品化することも可能という、作品の使用権利を販売するサイトも含まれているが、一方、各国にオリジナルアートを販売しているサイトもある。
シアトルに特化したスモールランの強みは、アーティストや顧客とのオーガニックな関係作りを目指している点だろう。アーティストの紹介も、簡単な履歴書形式ではなく、質問形式を導入することで、アーティスト個人の内面がより明らかになっている。それにより購入者がよりアーティストとの距離を縮められる仕組みといえる。
アートの販売にオンラインを導入することでマーケットは広がるが、作品の価値にあった価格設定の難しさや、高額な作品を実際に見せずに販売するという点で、ビジネスとして壁はまだある。そのなかで価格的な手軽さと地域に焦点を当てたビジネス展開を始めたスモールランの活躍は興味深い。