ピカソ、クレーの名画の「裏側」を見る展覧会でナチス略奪の軌跡を知る
パウル・クレーによる1925年作「ジンジャーブレッド」(Lebkuchenbild)の裏側 © Staatliche Museen zu Berlin, Nationalgalerie / Andres Kilger
<ベルリンのベルクグリュン美術館で名画130点の「裏側」=来歴を展示するという展覧会が始まった>
11月、ドイツ、ベルリンにある世界有数のアートコレクションを誇るベルクグリュン美術館(Sammlung Berggruen)で、ちょっと変わった「絵画の伝記」という展覧会がスタートし、話題を呼んでいる。
ピカソなどの名画が展示されているのだが、なんとここではこれまで一般公開されたことがない、作品の来歴が記された絵画の「裏側」が展示されているのだ。世界中に知られている名画の、知られざる裏側。そこには、時代に翻弄された人々の姿が刻まれていた。
ベルクグリュン美術館はパブロ・ピカソや、アンリ・マティス、パウル・クレー、アルベルト・ジャコメッティ、マックス・エルンストやミロといった、近代芸術の名画・名作を網羅するコレクションを所蔵している。
創設者ハインツ・ベルクグリュンは、1914年、ベルリン生まれの美術コレクター。ユダヤ系だった彼の家族は、ナチスが勢力を増していた1936年に故郷を追われ、アメリカへと亡命した。
それから60年。ベルリンの壁崩壊、東西ドイツ再統一を経て、再びドイツの首都となった故郷に戻ってきたベルクグリュンは、113点のアート作品を「和解の印」として展示するために、1996年、この美術館をオープンした。現在ベルクグリュン美術館は新たにコレクションに加わった作品を含む200点近くの名作群を所有、1250平米の空間に展示している。
今回の「絵画の伝記」展では、130点の名画の隠された来歴にスポットを当てている。全ての作品が現在の所有者だけでなく、現在までの全所有者のリストとともに紹介されており、来場者は絵画を表側と裏側の双方から見られる展示方法になっている。通常は目にすることのない、絵画作品の来歴等が記された裏側を見ることができるのだ。
特に興味深いのが、ナチスが権力を握った1933年から1945年までの、作品の所有歴である。ピカソ、クレー、エルンストなど、ナチスが「退廃芸術」と烙印を押し、貶めた芸術家たちの作品が並ぶが、その裏側を見るとナチスはその価値を実は知っていて、その上で押収し、売って資金を作っていたという歴史がわかるのだ。
1940年からナチスドイツに占領されていたフランスでは、ユダヤ人が所有していた芸術品が組織的に略奪されていた。指揮を執っていたのはパリのドイツ大使館とアルフレート・ローゼンベルク率いる「帝国指導者ローゼンベルク特捜隊(ERR)」というナチスの組織。4年間に渡る占領期間に何千点もの芸術品が本来の持ち主から取り上げられ、彼らの手に渡ったとされる。
この展覧会は、ドイツ文化財損害センターがサポートし、ナチスによる略奪品がその後きちんと元の持ち主に返却されたかを調査する、壮大なプロジェクトの一貫として企画されたものだ。このプロジェクトは1998年に44カ国が署名した「ワシントン条約」の取り決めに基づいている。世界中で長年に渡りナチス略奪品に関する同様の調査が進められているのだが、条約から20年を経た今年、ドイツでのこれまでの成果を公開しようという意味もこの展覧会にはあるようだ。