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プライバシー

「女好きウッズ」だっていいじゃない?

あの晩ウッズ夫妻に何があったのかを私たちに知る権利はないが

2010年1月6日(水)16時33分
ジュリア・ベアード(米国版副編集長)

セクシーは歓迎なのに 08年7月、PGAツアー・AT&Tナショナルに飾られたウッズの写真。AT&Tは昨年末、ウッズとのスポンサー契約打ち切りを発表した Jonathan Ernst

 スポーツ選手の妻にとってグルーピーと呼ばれる熱狂的な追っ掛けは天敵のようなもの。ロッカールームの外を何時間もうろつき、はだけた胸にサインを求めて「お持ち帰りして」とほのめかす。

 ゴルフ選手は長いこと、野球選手のグルーピーのほうがホットだと嘆いてきたが、彼らにだってセクシーな女性ファンはいる。97年に男性ファッション誌GQにタイガー・ウッズのプロフィール記事を書いたジャーナリストのチャールズ・ピアースによれば、ウッズも「熱い視線を送るギャラリーの」女性たちに気付いていた。

 特にピアースの目を引いたのは、「フリルの付いたレースのトップスに、素肌に柄を描いたと思えるほどピタピタのトラ柄ストレッチパンツをはいた」女性。彼女は、その前年は(ホワイト・シャークの異名を取る)グレッグ・ノーマンの追っ掛けでサメ柄のパンツをはいていたという。

 サメ柄!? という疑問はさておき、絶えず体を触られ、猫なで声で迫られ、神のように扱われる男と結婚したら、妻も冷静さを保つのは大変だろう(ミシェル・オバマでさえ、夫にやたらと触りたがるファンに「いいかげんに離れなさい」と言ったとされる)。

 ウッズがプライバシーの尊重を強く求めているのも、怒りと屈辱で取り乱しているに違いない妻エリン・ノルデグレンを守るためにほかならない。もちろんウッズの車が消火栓に衝突し、ノルデグレンが車の窓をゴルフクラブで壊した夜、一体何があったのかを詳しく知りたいのはみんな同じだ。

 だが私たちに知る権利はない。ノルデグレンに何があったのかも、ウッズの「罪」の詳細も。ウッズは政治家でも聖職者でも道徳家でもない。スポーツ選手なのだ。

 なぜ私たちは、スポーツ選手を規律正しい人間の手本と考えようとするのだろう。彼らは恵まれた肉体を持ち、エネルギッシュで、鍛えられている。それはスポーツに秀でるために必要な条件だ。

スポーツ選手の貞節は単なるおまけ

 だが精神的な強さや勇敢さと慎みや貞節は違う。こうした美点はあくまでおまけで、スポーツ選手に期待すべきものではない。なのに私たちは、肉体的に完璧な人間は精神的にも強靭であってほしいという不合理な願望を押し付ける。

 ウッズはホームページで、自らの「罪を心の底から」悔やんでおり、自分の価値観に忠実ではなかったとコメントした。その上で「基本的で人間的なプライバシー」を尊重してほしいと訴える。

 プライバシーとは「私的なこと、家族内で起きたことに関して守られるべき」美徳で、「個人的な過ちについて報道発表する必要はないし、家庭内の問題は世間に告白すべきでない」と、彼は言う。

 ウッズは正しい。プライバシーは今では忘れられた、大切な美徳だ。ただし気を付けなければならないことが2つある。

 1つは、ある種の女性(ウッズの浮気相手として名乗り出たバーのウエートレスなど)と遊べば、自分のプライバシーを危険にさらすということ。彼女たちは「ほっそりとしたふくらはぎ」や「ロマンチックな添い寝」についてベラベラしゃべり、留守番電話や携帯メールの内容を平気で漏らす。こうした相手と親密になったら、自分のプライバシーを守ることなど望めない。

 2つ目の注意点は、プライバシーの尊重は見て見ぬふりや、「やりたいようにやっていい」と同意義になり得ることだ。

 オレゴン州立大学のスティーブン・オーティズ准教授(社会学)は、スポーツ選手は不倫を隠し通せると考えがちだと話す。特別扱いされることに慣れていて、不適切な行動をしても責任を問われないと思い込んでしまうのだという。

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