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アメリカ経済

オバマの病的な医療保険改革

「国民皆保険」など聞こえはいいが、実行すれば医療費膨張と財政破綻を招く虚言に過ぎない

2009年6月16日(火)17時35分
ロバート・サミュエルソン(本誌コラムニスト)

パフォーマンス しゃべるだけでは何も変わらない──6月15日、米国医師会(AMA)でスピーチをするオバマ Jonathan Ernst-Reuters

 バラク・オバマ米大統領の医療保険「改革」が世間知らずなのか偽善なのかそれとも単に大嘘なのかは、区別がつかない。たぶん、そのすべてだろう。

 オバマは、医療費の急膨張を抑えることが至上命令だと言い続けている。それ自体は正しい。問題は、いま医療保険「改革」として喧伝されている方法では、医療費抑制はほぼ不可能なだけでなく、正反対の結果になる可能性もきわめて高いということだ。

 オバマ自身の大統領経済諮問委員会(CEA)の最近の報告書は、医療費の抑制がなぜそれほど重要かを示している。75年以降、国民一人当たりの年間の医療費(物価調整後)の伸びは、一人当たりの経済成長の伸びを毎年2.1ポイント上回ってきた。

 もしこの傾向が続けば、次のことが起こるとCEAは予測する。

■60年にはGDP(国内総生産)の5%だった医療費は現在ではほぼ18%に達すると推定され、2040年までには34%に達するだろう。つまり、GDPの3分の1だ。

■それぞれ高齢者と低所得者を対象とした公的医療保険、メディケア(高齢者医療保険制度)とメディケイドの支払いは、現在GDPの6%を占めるが、これが40年までには15%に増加する。現在の連邦政府支出のほぼ4分の3に匹敵する額だ。

■雇用者が被雇用者とその家族のために払う医療保険料は、96~06年の間に85%増加して年1万1941ドルになった(物価調整後)。それが25年までには2万5200ドル、40年までには4万5000ドルに増加する。その莫大なコストを捻出するため、雇用者は従業員の手取り給与を減らさざるを得なくなるだろう。

元凶は青天井の報酬システム

 オバマ政権は、医療費抑制について果てしなく喋る。喋り続けてさえいれば問題は解決するとでもいうように。「上昇曲線を抑える」が今の流行りのフレーズだ。

 オバマは医者や病院、製薬会社、医療機器メーカーなど主要な医療関係団体のトップをホワイトハウスに招いた。上昇曲線を抑えることで全員が一致した。だがこれはほとんどPRだ。米国医師会(AMA)や米病院協会が、全米80万人の医者や5700の病院を制御できるはずがない。

 医療費膨張の主な原因は明らかだ。病院と医者の報酬は患者に提供した個々の医療サービスを積み上げる形で決まり、それに応じた額が政府や民間の保険から支払われる。こうした青天井の報酬システムでは、医者も病院もより多くの医療サービスを提供するほうがトクになり、患者もそれを期待する。新しく高価な医療技術も、たくさん使えば使うほど利益になる。

 不運なことに、医療提供者や患者を喜ばせる行為の一つ一つが、国家全体を傷つけている。

 これが医療制度の最も難しいジレンマだが、オバマはこの点に正面から取り組もうとしていない。医療費抑制を強調する彼の姿勢は見かけ倒しだ。

無保険者4600万人の人気取り

 米議会で審議中の医療保険改革の目玉は、無保険のアメリカ人4600万人の大半に保障を広げることだ。人気の高い政策だし、道徳的な行いのようにも思える。保障の拡充は医療費増大に拍車をかけかねない。

 無保険者がもし医療保険に加入していたら、今よりどれだけ健康だったのかははっきりしない。彼らはすでに医療サービスを受けている。患者擁護団体ファミリーズUSAによれば、その額は08年で1160億ドル相当。そのうち37%は無保険者自身が支払い、政府や慈善団体が26%、残りの「未払い分」は医者や病院が負担したか、医療保険の保険料値上げに転嫁された。

 医療保険に入れれば一部の無保険者は助かるだろう。だが助からない人もいる。健康(18~34歳の無保険者では40%)な人には医療保険はいらないし、今のように病状が悪化してから病院に駆け込むのに比べて医療保険の保障で予防的な医療を受けるのと、どちらが安上がりかもはっきりしない。

 医療保険の対象を拡充して確実に起こるのは医療費の増大だ。医療保険に加入していると、人々はより多く医療サービスを利用する。オバマが選挙公約した医療保険改革が、10年間で1兆2000億ドルの財政支出増につながると推定される理由の一つだ(もう一つの理由は、今は他の人が負担している医療費まで政府が引き受けることになるから)。医療への需要が増大すれば、医療費政府と民間を問わず全体に増大するだろう。

改革は「儲かる」と期待する医療業界

 議会が医療保険改革で現実のこの壁にぶち当たり、コスト削減のための条項を付け加えることになるのはまちがいない。

 過去の行き当たりばったりの対策は、ほとんど医療費抑制に役立たなかった。必要なのは、徹底的なリストラクチュアリング(再構築)で医療制度を根本的に作り変えることだ。

 とくに医療サービスに応じた青天井の報酬制度と、専門ごとに細分化されて効率の悪い医療供給システムを正さなければならない。

 まずコスト高のメディケアから手をつけよう。メディケアは、高齢者と障害者4500万人の医療を保障する全米最大の医療保険。もちろん、反発を招くだろう。

 医療保険の保障範囲と支払いを拡大する一方で、医療費上昇も抑えられるというふりをするほうが簡単だ。歴代の大統領は何十年もそうしてきた。だからこそ医療業界の大半は、「改革」はおいしいものだと睨んでいる。

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