緑に囲まれた空間は都会のオアシスだ。なかでも注目すべきは街路樹。街路樹の多い地区に住んでいれば健康増進に顕著な効果が期待できることが、最近の研究で明らかになった。
7月にサイエンティフィック・リポートに掲載された論文によれば、シカゴ大学の研究チームはカナダのトロント市内の街路樹53万本の分布状況に関するデータと、3万人を超える住民を対象にしたオンラインの健康に関するアンケート結果を分析。健康状態の自己評価(将来、健康にどんな影響が出るかを予測する尺度になる)や、心血管代謝リスクや精神疾患の改善効果があるかどうかを重点的に調べた。
その結果、街路樹が1街区当たり10本増えると健康状態の自己評価が向上し、1世帯当たりの年収が平均1万ドル増加、あるいは7歳若返るのに相当する効果があることが分かった。同じく11本増えると、その地区の住民の心臓病、糖尿病、肥満といった代謝性疾患のリスクが低下し、健康状態の自己評価は飛躍的に向上した。
具体的な因果関係についてはさらに研究が必要だが、街路樹の健康増進効果を裏付ける研究結果はほかにもある。例えば木には空気をきれいにして大気汚染を軽減する効果があることが分かっている。10年に行われた研究によれば、アメリカでは木や森が除去する大気汚染物質は年間1740万トンに上り、医療費約68億ドルの節減につながっているという。
ヨーロッパに目を向ければ、パリは「ヨーロッパで最も木の多い都市」を自負。市内全体で47万8000本、街を取り囲む環状道路だけでも8000本の街路樹が植えられている。エストニアの首都タリンも負けてはいない。価値ある古木52本を保護するなど木を大切にしている功績をたたえて、ヨーロッパの樹木栽培団体で構成される欧州樹木栽培評議会によって今年度の「欧州樹木都市」に選ばれた。
「住めば都」とはいうけれど、どうせ住むなら健康にも経済にも優しい「木の都」に住みたいものだ。
[2015年8月25日号掲載]