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領土問題経済シフトで中国リスクを回避せよ
世界経済にも影響を及ぼし始めた尖閣問題。日本企業の逃げ場はASEANにある
巨大な消費市場と貿易インフラは魅力だが(湖北省武漢の港) Darley Shen-Reuters
尖閣諸島(中国名・釣魚島)の領有権をめぐる日中の対立は収まる気配がない。IMFのラガルド専務理事が、このまま関係悪化が続けばただでさえ危機にある世界経済にも悪影響が及ぶと警告したほどだ。
日本と中国には、既に経済的な悪影響が及んでいる。中国で反日暴動が荒れ狂った先月中旬には、一部の日本企業が操業停止に追い込まれ、工場や店舗も破壊された。抗議デモがやんでからも、経済的な影響を憂慮させる深刻な報道が続いている。
日中間の航空便の利用客は激減し、少なくとも1つの定期便が運航を休止した。反日暴動がピークに達した先月18日の翌日、貿易関連の会社でつくる日本貿易会の槍田松瑩会長(三井物産会長)は、中国側の通関業務の遅延も多少はあり得るとの情報を明かした。
先月下旬には、やはり領有権問題で中国ともめているフィリピン政府が日本企業15社と、中国にある工場をフィリピンに移転する案を協議したと発表した。実際にタイヤメーカーの東洋ゴム工業のように、中国での新規投資を控えてマレーシアなどに生産の軸足を移す可能性に言及する企業も出てきた。
中国側では4大銀行の大半を含む金融機関が、今週東京で開催されるIMF・世界銀行年次総会への出席を中止。「世界の金融システムに影響を与える国際的な大手金融機関」の1つに数えられる中国銀行は態度を明らかにしていないが、参加を自粛するようなら影響は大きい。
中国の銀行もボイコット
4大銀行のうち3行は、今月末から大阪で開かれる金融業界最大規模の国際会議「サイボス」への出席もキャンセルした。知名度は高くないが、金融業界にとっては重要な会議だ。
対立のすべてが領土問題に起因しているわけではない。より長期的な構造変化も影響している。最も重要なのは、中国とASEAN(東南アジア諸国連合)の自由貿易協定(FTA)が、15年末までにほぼ完全実施される見込みだということ。そうなれば、ASEAN諸国から中国に輸出する品目にかかる関税は平均0.1%に下がる見込みだ。
関税がほとんどゼロで中国に輸出ができるなら、日本企業は政治的リスクの少ない東南アジアに投資したほうがいい。ベトナムで生産して華南の豊かな消費者に届けるほうが、中国の北部や内陸部で生産して華南まで輸送するより安いかもしれない。
日本企業が中国から投資をよそへ移し始めたもう1つの理由は、賃金や材料費などコストの上昇だ。労働力のより安いインドネシアやベトナムに工場を移すのは自然の流れだ。日本の中堅造船会社ツネイシホールディングスは今年、フィリピンに造船所を完成させた。日本からフィリピンへの対内投資は昨年、前年比30%の伸びを見せ、日本の対アジア投資の半分近くはASEAN諸国に向かっている。
多くのASEAN諸国は、自国市場も成長している。大国インドネシアでは特に顕著だ。中国とASEANのFTAが実施されれば、日本企業は中国の高いコストも対中ビジネスの難しさも回避できることになる。
それでも限界はある。中国は単なる製造拠点ではなく、消費市場としての重要性を増すばかりだ。この市場を素通りするわけにはいかない。それに中国には世界トップクラスの港や物流システムなどの貿易インフラがある。中国各都市とも世界とも簡単につながることができる。
ASEAN諸国は中国に追い付こうとしているが、当面は北の巨大な隣人に後れを取ったままだろう。
From the-diplomat.com
[2012年10月17日号掲載]