最新記事

米景気

アメリカ経済は誰が大統領でも回復する

再選されたオバマは、その手腕とは関係なく経済政策が称賛されるラッキーな大統領になるだろう

2012年11月7日(水)14時48分
マシュー・イグレシアス

大同小異 どっちが買ってもバラ色の4年が待っていた? Eduardo Munoz-Reuters

 大接戦の米大統領選を制したのは、バラク・オバマだった。しかし結果が出る前から確かなことが一つあった。この選挙の勝者は、これから回復に向かう経済の恩恵を受けることになる。よほど大きなヘマさえしなければ、悲惨だった過去10年に比べて素晴らしい経済手腕を発揮したかのように見られるだろう。
 
 共和党のミット・ロムニー候補は、1200万人の新規雇用を生み出すと約束していた。この公約は批判されたが、その理由は実現不可能な数字だからではない。政策の手が入らずとも達成できる数字だからだ。

 米調査機関のムーディーズ・アナリティックスは今年4月発表の経済見通しで、向こう4年間で1170万人の雇用が創出されると予測した。米大手調査会社マクロエコノミック・アドバイザーズも同様に、1230万人と予測した。

 もちろん、誰もがそこまで楽観的なわけではない。米連邦議会予算事務局(CBO)は、やや控えめに960万人としている。とはいえCBOは、大型減税の期限切れと強制的な歳出削減が同時進行で今年末から起きる、いわゆる「財政の崖」問題に何の対策も取られないことを前提にしている。

 だが党派を越えてこの問題が重要視されていることを思えば、何らかの対策が打たれるはずだ。それにたとえ960万人(もしくはそれ以下)だったとしても、近年の雇用状況に比べれば、素晴らしい成功と見られるだろう。

景気回復が期待できる根拠

 というわけで、オバマは過去4年間の経済低迷の責任をブッシュ前大統領に押しつけることができる。仮にロムニーが勝っていたとしても、責任を押し付ける相手がオバマに変わるだけだった。

 では、なぜ景気回復はほぼ確実と見られているのか。その最大の要因は金融政策だ。

 クリーブランド連邦準備銀行のエコノミストであるエリス・トールマンとサイード・ザーマンの研究によれば、金融危機後の09年の経済環境における金利は、マイナス5%が適正だったとした。もちろんFRB(米連邦準備理事会)にとって、名目金利をゼロを下回る値にするのは不可能だ。さらに実質金利を下げるためにFRBはインフレ目標を高めに設定するという政策も取ってこなかった。その結果、政策金利はほぼゼロで据え置かれているが、実際には適正な金利より5ポイントも高い水準にあるため、失業率は跳ね上がり、経済回復のペースも鈍いものになってしまう。

 ところが、経済の回復が進むにつれて適正金利の値も高くなる。トールマンとザーマンは、今年第2四半期までに適正な金利水準はマイナス2%前後まで上昇していたと分析。実際の金利は依然、適正値より高いものの、その差は縮まりつつあるということだ。来年中にはゼロ金利が適正金利とほぼ一致するようになり、持続的な経済回復も見込めるだろう。そして、そのときホワイトハウスにいる人物は、自分の手腕とは関係のないことで称賛を浴びるはずだ。

レーガンも「棚ぼた」だった

 こうした状況は今回が初めてではない。ロナルド・レーガンは経済が低迷するなかで大統領に就任。当時のFRB議長ポール・ボルカーは高金利政策でインフレを鎮静化させ、直ちに金利を低下させた。これによりアメリカ経済は82年の深刻な不況から急速に回復。レーガンの保守的な政策とは関係なかったのに、彼のおかげだと思われた。

 オバマの2期目に、この80年代半ばのような劇的な景気回復が起きることはないだろう。だが今後4年間のアメリカ経済が過去4年をはるかに上回るものになるのはほぼ間違いない。オバマ大統領、あなたは本当にラッキーだ。

© 2012, Slate

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米アトランタ連銀総裁、任期満了で来年2月退任 初の

ワールド

トランプ氏、ネタニヤフ氏への恩赦要請 イスラエル大

ビジネス

NY外為市場・午前=円が9カ月ぶり安値、日銀利上げ

ワールド

米財務長官、数日以内に「重大発表」 コーヒーなどの
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 2
    炎天下や寒空の下で何時間も立ちっぱなし......労働力を無駄遣いする不思議の国ニッポン
  • 3
    ファン激怒...『スター・ウォーズ』人気キャラの続編をディズニーが中止に、5000人超の「怒りの署名活動」に発展
  • 4
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 5
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 6
    ついに開館した「大エジプト博物館」の展示内容とは…
  • 7
    冬ごもりを忘れたクマが来る――「穴持たず」が引き起…
  • 8
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 9
    「麻薬密輸ボート」爆撃の瞬間を公開...米軍がカリブ…
  • 10
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 1
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評家たちのレビューは「一方に傾いている」
  • 4
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 5
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 6
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 7
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 8
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 9
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統…
  • 10
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 8
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 9
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 10
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中