最新記事

買収

ドイツ中小企業を買いあさる中国マネー

世界市場で競争力を付けたい中国企業がドイツ経済を支える中小企業を次々と買収

2012年10月29日(月)15時35分
スミ・ソマスカンダ

ブランド力 「ドイツ製」は高い信頼性の象徴だ(メルセデスベンツの工場) Kai Pfaffenbach-Reuters

 ドイツのコンクリートポンプメーカー、プツマイスターは今年1月、3億6000万ユーロで中国の建設機械最大手の三一重工に買収されることになった。「相性は抜群だった」とプツマイスターのノルベルト・ショイヒCEOは言う。「普通は調整のためにリストラせざるを得ないが、今回は必要なかった」

 両社のケースは、中国企業によるドイツ企業の買収合併では過去最大規模とされるが、そうでなくなるのも時間の問題だ。何せ中国人投資家は今、ドイツ企業を買いあさっている。

 特に人気なのが「ミッテルシュタント」──ヨーロッパで最も強く最も豊かなドイツ経済の主力となる中小企業で、その多くが家族経営だ。ミッテルシュタントはドイツの労働力の60%を雇用する「縁の下の力持ち」。ほとんどがニッチな技術や、地味だが(特に中国で)大きな需要のある製品を扱っている。

 本来は従業員250人以下で年商6000万ドル以下の企業をいうが、最近では従業員数千人・年商数億ドルのはるかに大きな企業も含まれる。どのミッテルシュタントにも共通する特徴は、非上場で筆頭株主の一族が経営に参加している点だ。

 その堅実で概して慎重な経営手法は、ヨーロッパ各国にダメージを与えた世界金融危機をドイツが切り抜けられた理由の1つ。アーンスト・アンド・ヤングのアナリストで家族経営企業向けのサービスを担当するペーター・エングリシュによれば、大き過ぎないから柔軟性があるということもある。「大手の多国籍企業に比べて、リスクが蓄積しない」

ユーロ危機が大きな転機に

 信頼できて高品質で、配達も早い「ドイツ製」ブランドに、客は喜んでカネを出す。故障したハイテク装置の代替品がすぐに届かないと生産がストップするメーカーにしてみれば、価格は問題ではない。そうした質の高さが、世界市場で競争力を付けたい中国企業を引き付けている。「中国企業も80%はまねができた」と自動車・機械メーカーでつくるドイツ・ミッテルシュタント協会のマルク・テンビーク会長は言う。「しかし残り20%はまねできなかった。それは『ドイツの質』だ」

 既に中国企業は過去1年間にドイツのコンクリートポンプメーカー、消費者向け電子製品メーカー、自動車ドアロック装置メーカー、自動制御装置メーカーを買収。昨年初め以降、買収したミッテルシュタントは21社に上る。ドイツ企業を手に入れれば、定評のある名前でビジネスができ、ヨーロッパ市場への足掛かりを得るのに役立つ。ドイツの労働者と経営陣が持つノウハウとスキルも利用できる。

 以前は外国企業による買収を嫌うミッテルシュタントが多かったが、ユーロ危機が転機となった。受注が途絶え、中国企業による買収を歓迎するところも出てきている。

 多くの場合、相性はいいが、なかには中国人CEOとドイツ人従業員の文化の違いを克服するのが難しい場合もある。「労働者が素晴らしくても、文化がかみ合わなければ大きな問題が生じる」とテンビークは言う。

 中国企業による買収は、長い目で見ればミッテルシュタントにとって痛手になると警告する声もある。中国国有企業の狙いはドイツ企業の知的財産とノウハウだと、コトラー・マーケティング・グループのミルトン・コトラーは言う。「三一重工はドイツに自社工場をつくった。プツマイスターブランドは維持すると表明しているが、それを土台に三一ブランドを構築することに投資する構えだ。いずれは三一ブランドが主流になる」

 プツマイスターのショイヒも「常に危険はある」と認める。「しかしビジネスでは、じっとしていたら追い抜かれる」

From GlobalPost.com特約

[2012年9月19日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ロシアとウクライナ、新年の攻撃に非難応酬 ヘルソン

ワールド

スイスのバー火災、約40人死亡・100人超負傷 身

ワールド

石油タンカー追跡、ロシアが米に中止を正式要請 米紙

ワールド

ロシア、ウクライナ攻撃の証拠を米に提供 プーチン氏
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中国軍の挑発に口を閉ざす韓国軍の危うい実態 「沈黙」は抑止かそれとも無能?
  • 2
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめる「腸を守る」3つの習慣とは?
  • 3
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチン、その先は袋小路か
  • 4
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 5
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 6
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 7
    日本人の「休むと迷惑」という罪悪感は、義務教育が…
  • 8
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 9
    「断食」が細胞を救う...ファスティングの最大効果と…
  • 10
    【現地発レポート】米株市場は「個人投資家の黄金時…
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 5
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 6
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 7
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 8
    中国軍の挑発に口を閉ざす韓国軍の危うい実態 「沈黙…
  • 9
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 10
    【世界を変える「透視」技術】数学の天才が開発...癌…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中