最新記事

中国

中国GDP成長率より大事な数字

5四半期連続で中国の経済成長率が減少したが、長期的に見れば政府の戦略通り?

2012年4月16日(月)15時11分
トマス・ミュシャ

脱「世界の工場」 中国は輸出依存から脱却し、国内消費の拡大による経済成長を目指している(湖南省の靴製造工場) China Daily-Reuters

 中国経済が失速している――そんな見出しが先週、メディアをにぎわせた。中国政府の発表によると、今年の第1四半期のGDP伸び率は前年同期比で8・1%。昨年第4四半期の8・9%から鈍化しただけでなく、過去3年間で最も低い水準となった。

 こうしたニュースが深刻度を増して受け止められたのは、中国政界をこのところ揺るがしているスキャンダルのせいでもある。重慶市共産党委員会書記を務め、中国政界のホープと目されてきた薄熙来(ボー・シーライ)が先月、解任された。2月には、薄の右腕だった重慶市の副市長が米総領事館へ駆け込み、政治亡命を求めるという事件が発生した。

 さらに先週には、薄の妻の谷開来(クー・カイライ)がイギリス人ビジネスマンの殺人容疑で逮捕されるという衝撃の展開を見せた。

 だが、こうした政治スキャンダルとは裏腹に、中国経済の実態はそう悪くない。実際は、すべてが計画通りに進んでいるとの見方もある。

 中国政府は、自国経済を輸出依存から脱却させ、より安定した構造へと徐々に移行させようとしている。つまり、何が起きるか分からない国際市場に頼るのではなく、国内の消費拡大によって経済成長を目指そうという戦略だ。

インフレリスクは警戒

 先週発表された報告を見る限り、この戦略は非常にうまくいっている。ウォールストリート・ジャーナル紙(WSJ)電子版が指摘しているように、今年の第1四半期における経済成長の76%を家計消費と政府支出が占めていた。これらの消費率はアメリカさえも上回る。中国の過去10年間の平均が約40%だったことを考えると、国内消費の拡大傾向は明らかだ。

 長期的にみると、この数字こそが注目すべきデータと言える。中国経済の移行が順調に進んでいるかどうかを判断するのに、最も信頼できる指標だからだ。

 もちろん、先週の報告には危惧すべき兆候も数多くみられた。中国の小売市場(特に世界一の市場を誇る自動車市場)の成長率は11・6%と、1年前に比べてやや鈍化した。また、現在3・6%で推移しているインフレ率については、温家宝首相が「インフレリスクは高まっている」と警鐘を鳴らした。

 中国と中国経済について考えるとき、重要なのは長期的な視点に立つこと。最も注目すべきなのは、中国経済にカネを注ぎ込んでいるのが誰なのかを見極めることだろう。

GlobalPost.com特約

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国、フェンタニル巡る米の圧力に「断固対抗」=王外

ワールド

原油先物、週間で4カ月半ぶり下落率に トランプ関税

ビジネス

クシュタール、米当局の買収承認得るための道筋をセブ

ビジネス

アングル:全米で広がる反マスク行動 「#テスラたた
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:進化し続ける天才ピアニスト 角野隼斗
特集:進化し続ける天才ピアニスト 角野隼斗
2025年3月11日号(3/ 4発売)

ジャンルと時空を超えて世界を熱狂させる新時代ピアニストの「軌跡」を追う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 2
    「コメが消えた」の大間違い...「買い占め」ではない、コメ不足の本当の原因とは?
  • 3
    113年間、科学者とネコ好きを悩ませた「茶トラ猫の謎」が最新研究で明らかに
  • 4
    一世帯5000ドルの「DOGE還付金」は金持ち優遇? 年…
  • 5
    強まる警戒感、アメリカ経済「急失速」の正しい読み…
  • 6
    著名投資家ウォーレン・バフェット、関税は「戦争行…
  • 7
    イーロン・マスクの急所を突け!最大ダメージを与え…
  • 8
    定住人口ベースでは分からない、東京23区のリアルな…
  • 9
    テスラ大炎上...戻らぬオーナー「悲劇の理由」
  • 10
    34年の下積みの末、アカデミー賞にも...「ハリウッド…
  • 1
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 2
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 3
    イーロン・マスクへの反発から、DOGEで働く匿名の天才技術者たちの身元を暴露する「Doxxing」が始まった
  • 4
    アメリカで牛肉さらに値上がりか...原因はトランプ政…
  • 5
    ニンジンが糖尿病の「予防と治療」に効果ある可能性…
  • 6
    「浅い」主張ばかり...伊藤詩織の映画『Black Box Di…
  • 7
    イーロン・マスクの急所を突け!最大ダメージを与え…
  • 8
    「コメが消えた」の大間違い...「買い占め」ではない…
  • 9
    「絶対に太る!」7つの食事習慣、 なぜダイエットに…
  • 10
    ボブ・ディランは不潔で嫌な奴、シャラメの演技は笑…
  • 1
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 2
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 8
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 9
    細胞を若返らせるカギが発見される...日本の研究チー…
  • 10
    イーロン・マスクへの反発から、DOGEで働く匿名の天…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中