最新記事

医療

虫歯でERに駆け込むアメリカ人

普通の歯科医に診てもらえない低所得者がERに殺到、虫歯1本に1000ドルもかける茶番の元凶は、やっぱり医療保険の不備

2012年3月1日(木)17時11分
サマンサ・スタインバーン

格差 公的医療保険をもたないことのしわ寄せは低所得層に Mario Anzuoni-Reuters

 歯がシクシク痛む。どうやら虫歯ができたようだ──。そんなとき、近所の歯医者ではなく、大病院の緊急救命室(ER)に駆け込むアメリカ人が増えていることがわかった。

 ピュー・リサーチ・センターが2月28日に公表した最新調査によれば、歯のトラブルでERを訪れる人の数は、06年から09年の間に全米で16%も増加したという。いくつかの州では特にその傾向が顕著で、サウス・カロライナ州では過去4年間で60%近く増加。テネシー州では、歯科治療のために病院のERを訪れた人の数が火傷の患者の5倍に達した。

 ERで歯科治療を受けるという行為は、「驚くほどカネがかかり、驚くほど非効率だ」と、調査を精査したフロリダ大学歯学部教授のフランク・カタラノッテ博士は語る。カタラノッテによれば、定期的な歯のクレンジングのような予防的処置の医療費が50〜100ドル程度なのに対し、虫歯や感染症の処置を救命病棟で受ける場合は1000ドルかかるという。

治らない患者がERに戻ってくる悪循環

 しかも、ERの医師や看護師は歯科の専門家ではないため、そこで提供できる治療は痛みを止めたり感染症を抑える応急処置に限定される。歯の病気が治まらないと、患者は高額の追加処置を受けるために再びERに戻ってくる。

 ピュー・リサーチ・センターによれば、ミネソタ州では歯科関連の治療でERを訪れる患者の20%が再診だった。「間違った環境で、間違ったタイミングで、間違ったサービスが行われている」と、同センターの小児歯科活動担当ディレクター、シェリー・ゲーシャンは言う。

 人々はなぜ、普段から地域の歯科医院で定期的な検査を受けておかないのだろうか。もともと歯科医の数が足りないうえに、メディケイド(低所得者医療保険制度)を使う患者を敬遠する歯科医院が多いためだと考えられる。

 事態を改善するために、地域で歯科治療を受けやすくするよう各州の政策にいくつかの変更を加えるべきだと、ピュー・リサーチ・センターは提言している。小児科医が基本的な歯科治療も提供できるようインセンティブを用意したり、診療報酬を実際の治療コストをカバーできる額に引き上げるなどして、より多くの歯科医院にメディケイドへの参加を促す方策などが考えられる。

GlobalPost.com特約

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

原油先物、週間で4カ月半ぶり下落率に トランプ関税

ビジネス

クシュタール、米当局の買収承認得るための道筋をセブ

ビジネス

アングル:全米で広がる反マスク行動 「#テスラたた

ワールド

トルコ中銀が2.5%利下げ、インフレ鈍化で 先行き
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:進化し続ける天才ピアニスト 角野隼斗
特集:進化し続ける天才ピアニスト 角野隼斗
2025年3月11日号(3/ 4発売)

ジャンルと時空を超えて世界を熱狂させる新時代ピアニストの「軌跡」を追う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 2
    「コメが消えた」の大間違い...「買い占め」ではない、コメ不足の本当の原因とは?
  • 3
    113年間、科学者とネコ好きを悩ませた「茶トラ猫の謎」が最新研究で明らかに
  • 4
    一世帯5000ドルの「DOGE還付金」は金持ち優遇? 年…
  • 5
    強まる警戒感、アメリカ経済「急失速」の正しい読み…
  • 6
    著名投資家ウォーレン・バフェット、関税は「戦争行…
  • 7
    イーロン・マスクの急所を突け!最大ダメージを与え…
  • 8
    定住人口ベースでは分からない、東京23区のリアルな…
  • 9
    テスラ大炎上...戻らぬオーナー「悲劇の理由」
  • 10
    34年の下積みの末、アカデミー賞にも...「ハリウッド…
  • 1
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 2
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 3
    イーロン・マスクへの反発から、DOGEで働く匿名の天才技術者たちの身元を暴露する「Doxxing」が始まった
  • 4
    アメリカで牛肉さらに値上がりか...原因はトランプ政…
  • 5
    ニンジンが糖尿病の「予防と治療」に効果ある可能性…
  • 6
    「浅い」主張ばかり...伊藤詩織の映画『Black Box Di…
  • 7
    イーロン・マスクの急所を突け!最大ダメージを与え…
  • 8
    「コメが消えた」の大間違い...「買い占め」ではない…
  • 9
    「絶対に太る!」7つの食事習慣、 なぜダイエットに…
  • 10
    ボブ・ディランは不潔で嫌な奴、シャラメの演技は笑…
  • 1
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 2
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 8
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 9
    細胞を若返らせるカギが発見される...日本の研究チー…
  • 10
    イーロン・マスクへの反発から、DOGEで働く匿名の天…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中