携帯ゲーム「アングリーバード」の野望
生誕1周年を祝うため、世界各地にコスプレファンが集結。カルト的人気の「鳥」が業界地図を塗り替える
売り上げNo1 アングリーバードを開発したロビオ社のミカエル・ヘッドCEO Georgina Prodhan-Reuters
12月11日、ワシントンの地下鉄の駅で、空手の組手のようなものを披露する少年2人を見かけた。だが駅の雑踏の中で誰も彼らに注目しなかったし、その動きは例のイベントとも関係ないようだった。
例のイベントとは、この日、ロンドンのトラファルガースクエアなど世界各地で行われた、スマートフォン向けゲーム「アングリーバード」の生誕1周年を祝うパフォーマンスのこと。アホみたいに単純な仕組みなのに世界中で大ヒットしているゲームの誕生パーティーだ。
今回の世界的なイベントをウェブを通じて呼びかけたのは、このゲームを開発したフィンランドのロビオ社。誕生日を一番祝ってくれた都市には、アングリーバードの特別ステージを新たに作ると約束した。だがアングリーバードのファンたちには、そんな褒美も必要なかっただろう。なにしろ発売以来、このゲームの中毒者は世界中で続出。ロビオは携帯電話よりもっと儲かる市場への進出も目論んでいる。
ゲームの内容はこんな感じだ。丸い緑色の豚が、極太眉で羽根なしの鳥から卵を盗む。怒った鳥は豚に仕返しをする。プレイヤーは携帯電話のタッチスクリーンを操作して、パチンコ玉のように鳥を飛ばして豚の家などにぶつける。家が壊れたら成功で、ポイントが獲得てきる。
本当にばかみたいに単純だから始めるのは簡単だが、やめるのは難しい。ロビオはiPhone版だけで1日に累計約110万時間分もプレーされているという。ヘルシンキを拠点とするロビオは、アングリーバードを昨年12月に発表した。初めは地元で人気が高まり、次にヨーロッパ、そして世界へと急速に広がっていった。
イギリスのiPhoneアプリストアでは2月に売上1位に輝き、その数カ月後にはアメリカでも1位に。アップルは先週、2010年に最も売れたアプリだと発表した。iPhone版のダウンロード数は3000万件に上る(1回のダウンロードで約1ドル)。
グーグルの携帯電話用OSアンドロイドなら、無料でダウンロードできる。アンドロイド版には現在500万人が登録しており、毎月の広告収入は100万ドルにもなる。すべてのバージョンを合わせると、総ダウンロード数は5000万件だ。
プレステやWiiでも遊べるように
携帯業界を制覇したロビオは、ほかのハイテク業界にも目を向け始めた。ある幹部に言わせれば、アングリーバードは「携帯電話用に開発され、その後あらゆる分野に進出している初めてのブランド」だ。
ロビオは最初、多くの携帯電話用ゲーム会社と同じく、エレクトロニック・アーツのような大手の下請けとして製品を開発していた。しかし激しい競争が携帯電話ゲームの価格を下落につながり、また小さなタッチスクリーン上でできることは限られている。そんななかアングリーバードの大成功と、その無愛想な鳥のキャラクターにカルト的な人気が集まったことで、ロビオはこのキャラを利用したマルチプラットフォームのブランドを立ち上げることを決意した。
この数カ月で社員数が30人を超えたロビオは今、アングリーバードの新たな展開を模索している。フェースブックのようなネットワーキングサイトや、プレイステーションにXbox、Wiiなどのプラットフォームにも適応できるようにするのだ。
加えて「収益化の拡大」も狙っている。ロビオはまず、しかめっ面をした鳥のぬいぐるみや洋服といったキャラクターグッズを売り出した。野望はさらに膨らみ、現在はアングリーバードのテレビドラマ化や映画化の可能性を探っている。テレビゲームではこれまでもあったが、携帯電話ゲームでは初の試みだ。