最新記事

リコール

トヨタの秘密主義にいら立つアメリカ

航空機のブラックボックスにあたるEDRのデータ公表を拒むのはなぜか

2010年2月17日(水)15時58分
マシュー・フィリップス

飛行機の墜落事故で原因究明のカギを握るブラックボックスが、アメリカの新型車の3分の2にも搭載されている。「イベントデータレコーダー(EDR)」だ。

 EDRはエアバッグが作動するような事故が起きたときの車両速度、ブレーキやアクセルの状態、シートベルト着用の有無を記録する装置。何百万台ものトヨタ車のリコールにつながった急加速の原因究明に役立つ可能性があるが、1つ問題がある。トヨタがデータを公表していないのだ。

 フォードやゼネラル・モーターズ(GM)、クライスラーのデータは司法当局者がダウンロードできるが、トヨタのデータをダウンロードできるのはトヨタだけ。見られるのは全米に1台しかない専用パソコンで、裁判所命令もしくは行政当局の要請があった場合のみダウンロードする。

 ホンダも日産もトヨタ同様のシステムを採っているが、トヨタの極秘主義は専門家の懸念を呼んでいる。「トヨタはデータをダウンロードするたび問題の兆候はないと言う」と、消費者保護団体セーフティー・リサーチ・アンド・ストラテジーズの創設者ショーン・ケインは言う。

自ら公表しないなら法廷で

 事故調査関係者もいら立っている。「トヨタがデータをダウンロードをしてもあまり役に立たないことが多い」と、テキサス州の事故再現専門家エイプリル・ヤーギンは言う。同州では昨年末、09年型の大型高級セダン、アバロンがフェンスを突き破って池に落ち、4人が死亡する事故があった。今年1月にトヨタ側がデータをダウンロードしたが、分かったのは時速70誅で衝突したことだけだった。

 トヨタは99年からEDRを搭載しているが、あくまでエアバッグなど安全装置の研究開発に役立てるためのものと位置付けている。トヨタによれば、約200件の事故データを提供したが、原因究明の決め手になったのは1件だった。

 現在、全米でトヨタに対する訴訟の準備が進んでいる。法廷でトヨタは「分かち合いの精神」を学ぶことになるだろう。

[2010年2月24日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

OPECプラス有志国、増産拡大 8月54.8万バレ

ワールド

OPECプラス有志国、8月増産拡大を検討へ 日量5

ワールド

トランプ氏、ウクライナ防衛に「パトリオットミサイル

ビジネス

トランプ氏、7日にも中国とTikTok米国事業の売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸せ映像に「それどころじゃない光景」が映り込んでしまう
  • 4
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 5
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 6
    「登頂しない登山」の3つの魅力──この夏、静かな山道…
  • 7
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 8
    「詐欺だ」「環境への配慮に欠ける」メーガン妃ブラ…
  • 9
    孫正義「最後の賭け」──5000億ドルAI投資に託す復活…
  • 10
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 4
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 5
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 6
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 7
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 8
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 9
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 10
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 6
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 9
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 10
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中