最新記事

中国はなぜ横暴か

中国vs世界

権益を脅かす者には牙をむく
新・超大国と世界の新しい関係

2010.10.26

ニューストピックス

中国はなぜ横暴か

「平和的台頭」を捨て去り、権益を脅かす者には牙をむく。「新・超大国」と世界の新しい関係

2010年10月26日(火)12時07分
ジョシュア・カーランジック(米外交評議会研究員)、長岡義博(本誌記者)、アイザック・ストーン・フィッシュ(北京特派員)

 中国人民解放軍きっての外国通、熊光楷(ション・コアンカイ)上将(大将)は最近いら立っている。ただし怒りの対象は中国の庭先である黄海に原子力空母を派遣すると表明したアメリカでも、沖縄の尖閣諸島沖で中国漁船の船長を逮捕した日本でもない。最高指導者だったトウ小平の「遺言」が、世界から間違って解釈されていることに我慢がならないからだ。

 中国政府は、これまでトウが90年代初頭に残した「才能を隠して外に出さない(韜光養晦)」という方針を忠実に守って外国と付き合ってきた。熊に言わせれば、最近この言葉は国外で「能力を隠して再起を待つ」とか「野心を隠して爪を研ぐ」と誤訳されている。「この言葉の真意は自分の力をひけらかさないということにある。それが中国人の伝統だ」と、熊は先月広州市で開かれたあるフォーラムで主張した。

 とはいえ世界から誤解される原因は、むしろ中国自身の横暴な態度にもある。最近の尖閣問題で中国政府は街頭での反日デモを黙認し、丹羽宇一郎駐中国大使を夜中に呼びつけ、日本の製造業に欠かせないレアアース(希土類)の輸出を止めてついに日本を譲歩させた。東シナ海だけでなく南シナ海の権益を「核心的利益」と呼び(「核心的利益」はこれまで中国政府が他国に譲れない対象と考えているチベットや台湾にしか使わなかった言葉だ)、インドとの領土問題も再燃させようとしている。

 熊がどんなに外交方針が誤解されていると主張しようと、かつて「平和的台頭」を掲げて近隣諸国との協調をうたった中国の姿勢は過去のものになったようだ。どうやら、この国は近隣諸国やアメリカに対して、自らの軍事力と経済力を無視すれば痛い目に遭う、と見せつけたくなったらしい。

権力闘争が外交に影響か

 最近の中国の行動を見れば、「実力をひけらかさない」という言葉と裏腹の言動ばかりが目につく。人民解放軍は先月、上海協力機構のメンバーであるカザフスタンに爆撃機を飛ばし、合同訓練を実施。中国空軍が外国の領土で爆撃訓練を行うのは初めてのことだ。

 また米国防総省が原子力空母を演習目的で黄海に派遣すると発表した8月には、人民解放軍の研究機関である軍事科学院の羅援(ルオ・ユアン)少将が人民日報系英字紙で「中国から一番借金をしている国が中国に挑戦したらその結果がどうなるか想像せよ」と警告した。

 これまで穏健派とみられていた中国外交官の態度も傍若無人になり始めている。国連事務次長であり、中国の国連職員トップのは先月上旬、オーストリアで開かれた事務総長との夕食会で酔っぱらい、「あなたが私を好きじゃないってことは知っている。でも私もあなたが好きじゃない」「(国連本部のある)ニューヨークには来たくなかった。絶対に嫌だった」と暴言を吐いた。

 しまいには、日本の検察当局が中国人船長の釈放を決定した際には、温家宝(ウェン・チアパオ)首相は国連総会の演説で領土問題を意味する「核心的利益」を「断固として守る」と強気に宣言した。「偶然の出来事ではあったが、尖閣の事件をきっかけに中国は世界に向けて超大国宣言をした」と、中国人政治学者の趙偉宏(チャオ・ウェイホン)は言う。「遅かれ早かれ、そうなると分かっていたが」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:EUの対中通商姿勢、ドイツの方針転換で強

ワールド

新潟県知事、柏崎刈羽原発の再稼働を条件付きで了承 

ワールド

アングル:為替介入までの「距離」、市場で読み合い活

ビジネス

日経平均は反落、ハイテク株の軒並み安で TOPIX
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ成長株へ転生できたのか
  • 4
    中国の新空母「福建」の力は如何ほどか? 空母3隻体…
  • 5
    ロシアはすでに戦争準備段階――ポーランド軍トップが…
  • 6
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 7
    アメリカの雇用低迷と景気の関係が変化した可能性
  • 8
    幻の古代都市「7つの峡谷の町」...草原の遺跡から見…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    EUがロシアの凍結資産を使わない理由――ウクライナ勝…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 7
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 8
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中