最新記事

ツイッターはハイチを救えない

ハイチ大地震

M7.0に直撃された
最貧国の惨劇と国際支援のあり方

2010.02.04

ニューストピックス

ツイッターはハイチを救えない

ハイチ関連の「つぶやき」があふれているが、価値のある情報が少ないうえデマが広がりやすい

2010年2月4日(木)13時12分
ジョシュア・キーティング(フォーリン・ポリシー誌編集者)

限界を露呈 ツイッターは既存のニュースメディアの代わりになれない

 昨年夏に行われたイラン大統領選後の暴動は、世界初の「ツイッター革命」といわれた。だとしたら、1月12日にハイチを襲った大地震は世界初の「ツイッター災害」だ。

 2004年のインド洋大津波や翌年のハリケーン・カトリーナ以降、メディアの環境は激変したが、ハイチ大地震ではそれが顕著に表れている。ハイチの最新ニュースを読み、共感を示し、援助の方法を調べるために、世界中のツイッターユーザーがサイトにアクセス。ハイチは瞬く間に、ツイッターの「人気のトピック」に躍り出た。

 この波に乗ろうと、ニューヨーク・タイムズCNNなどの既存大手メディアも、ニュースをリストアップするツイッター内の機能を利用し、現地からのアップデート情報を集めたコーナーを設けている。ツイッター熱は、地震発生からしばらくしても衰えなかった。地震から1週間以上経った1月20日には、首都ポルトープランスでの余震をめぐってアクセスが集中し、サイトが一時閉鎖された

偽の救援情報に問い合わせが殺到

 ハイチでの惨劇に関心がある人にとって、ツイッターがポータルサイトになっているのは明らかだ。信じられないなら、「#ハイチ」をクリックして3秒後に画面を更新してみるといい。

 だが、現地情報を知る手段として、ツイッターは本当に既存メディアに取って代わる存在なのだろうか。

 当然ながら、ハイチ関連のつぶやきの大半はニュース報道ではなく、被災者への共感の言葉や他のサイトの記事へのリンクだ。CNNのアンダーソン・クーパーサンジェイ・グプタなどの外国人記者が現地の印象をつぶやくこともあるが、それは報道というより番組内容の補足に近い。国境なき医師団や国際協力NGO「国際ケア機構」も自分たちの活動をツイッターで報告しているが、救助活動に直接関わる人以外は興味をもちにくい。

 しかも、ツイッターには負の側面もある。実際には行われていない救援活動などの偽情報があっという間に広がってしまうのだ。「ユナイテッド・パーセル・サービス(UPS)がハイチへの配送を無料にした」「アメリカ系航空会社が医師を無料でハイチまで搭乗させる」といったつぶやきのせいで、名指しされた会社に問い合わせが殺到している。

 ツイッターによって組織活動が効果的に行われるケースもないわけではない。たとえば、米空軍はネット上の圧力に押されてポルトプランスの空港での救援関連の航空機の離発着枠を増やしたが、ツイッターはこの運動に一役買っている

 だが、善意の読者を誤った方向に誘導するケースも、同じくらい頻繁に起きている。とくに有名人が絡む場合はリスクが高い。

 ハイチ生まれでニューヨーク在住のミュージシャン、ワイクリフ・ジョンは、救援活動をしながら祖国を回り、自身が運営するエール基金への義捐金をツイッターで呼びかけた(エール基金は地震直後、「人気のトピック」に入っていた)。

 ところがその直後、基金の不正経理問題と大地震のような大規模災害への対応能力に疑問が浮上。支援関係者の間では、エール基金のせいでより的確に危機に対応できる団体への寄付が減ったという憤りが渦巻いている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米銀のSRF借り入れ、15日は15億ドル 納税や国

ワールド

中国、南シナ海でフィリピン船に放水砲

ワールド

スリランカ、26年は6%成長目標 今年は予算遅延で

ビジネス

ノジマ、10月10日を基準日に1対3の株式分割を実
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェイン・ジョンソンの、あまりの「激やせぶり」にネット騒然
  • 3
    腹斜筋が「発火する」自重トレーニングとは?...硬く締まった体幹は「横」で決まる【レッグレイズ編】
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがま…
  • 6
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 7
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 8
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 9
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 10
    「この歩き方はおかしい?」幼い娘の様子に違和感...…
  • 1
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 2
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 3
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 4
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 5
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 6
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 7
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    埼玉県川口市で取材した『おどろきの「クルド人問題…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 10
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中