コラム

若者がクルマを買わなくなった原因は、ライフスタイルの変化より断然「お金」

2016年04月27日(水)17時22分

トヨタ自動車は全体の約8割を海外で販売するグローバル企業で、そうしたことも日本での販売価格上昇に影響している(4月25日に開幕した北京モーターショー16でトヨタが披露した燃料電池車のコンセプトカー「FCVプラス」) Kim Kyung-Hoon-REUTERS


〔ここに注目〕クルマの価格と若者の所得

 若者の6割がクルマを買いたくないという調査結果が話題となっている。若者のクルマ離れは以前から指摘されていたことだが、最近はその傾向がより顕著になっているのかもしれない。背景にあるのはマクロ経済的な環境変化である。

自動車そのものへのネガティブな意見は少ない

 日本自動車工業会は4月8日、2015年度乗用車市場動向調査の結果を発表した。これは同工業会が2年に1度実施しているもので、定例的な調査に加え、その時に話題となっているテーマについても調査が行われる。今回は若年層の自動車購買動向に関する項目が設定された。

 調査結果によると、クルマを保有していない若者の約7割が「クルマに関心がない」と回答し、同じく約6割が「クルマを買いたくない」と回答している。時系列の調査ではないので、以前がどうだったのかは不明だが、6割が買いたくないと答えているという現実を考えると、若者の購入意欲は低いと判断してよいだろう。

 ただ、購入しない理由を見てみると、必ずしもクルマそのものが嫌いになったわけではなさそうだ。クルマを買いたくない理由として多かったのは「クルマを買わなくても生活できる」「駐車場代などで今まで以上にお金がかかる」「自分のお金はクルマ以外に使いたい」の3つである。

 クルマを買わなくても生活できるという理由を除くと、クルマそのものに興味がないのではなく、お金がかかることを危惧している様子がうかがえる。「環境に悪い」「乗りたい車がない」といった、自動車そのものに対するネガティブな理由は少ないのでの、やはり金銭的な問題が大きいと考えてよいだろう。

 経済的な理由でクルマを買わなくなったのだとしたら、クルマが高くなって手が出なくなったのだろうか、それともクルマを買う余力がなくなったのだろうか。

 このところクルマの値段が上がったという話をよく耳にするようになった。自動車メーカーは、車種やグレードを入れ替えていくので、同じ条件で価格がどう推移したのか検証することはなかなか難しい。また販売の現場では、様々なオプションが組み合わされた形で納入されるので、本体価格がどの程度、上昇しているのかは直感的に分かりにくい。

 ただ、最近では軽自動車でも200万円近くする車種が出てきているという現実を考えると、顧客の購入単価が上がっているのは間違いなさそうだ。

自動車メーカーはグローバル企業だから安く販売できない

 こうした状況は、自動車メーカーの決算や統計にもあらわれている。トヨタ自動車の売上高を販売台数で割った単純平均価格は、1995年3月期には約170万円だったが、2015年3月期では300万円になっている。約20年で1.7倍に上昇した計算だ。総務省の小売物価統計を見ても同一グレード車種の価格は上昇している。クルマの単価は上がっているとみてよいだろう。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

中国で「南京大虐殺」の追悼式典、習主席は出席せず

ワールド

トランプ氏、次期FRB議長にウォーシュ氏かハセット

ビジネス

アングル:トランプ関税が生んだ新潮流、中国企業がベ

ワールド

アングル:米国などからトップ研究者誘致へ、カナダが
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 2
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の展望。本当にトンネルは抜けたのか?
  • 3
    「前を閉めてくれ...」F1観戦モデルの「超密着コーデ」が物議...SNSで賛否続出
  • 4
    現役・東大院生! 中国出身の芸人「いぜん」は、なぜ…
  • 5
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 6
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 7
    首や手足、胴を切断...ツタンカーメンのミイラ調査開…
  • 8
    「体が資本」を企業文化に──100年企業・尾崎建設が挑…
  • 9
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 10
    高市首相の「台湾有事」発言、経済への本当の影響度.…
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 7
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 8
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story