コラム

亀井金融相は少しも怖くない

2009年09月17日(木)15時55分

 9月16日、ついに発表された鳩山新内閣の顔ぶれは、なかなか印象的だった。

 民主党内の各グループのバランスに配慮し、ベテラン議員を起用した人事について、読売新聞は「安全運転」で政権運営に臨もうとしていると評した

 麻生太郎前首相の乱暴な運転の後に、安全運転の内閣が誕生したことが悪いとでも言いたいのだろうか。

 各グループから幅広く人材を起用したのは正しい判断だ。閣内で活発な議論が行われるし、入閣できなかった大物議員が問題を引き起こす可能性も少なくなる(反主流派のリーダー格である野田佳彦は入閣できず、不満をもらしていると伝えられるが、野田グループに属する議員は多くない)。

 社民党党首の福島瑞穂は消費者・少子化担当相に就任。国民新党代表の亀井静香は当初、防衛相と報じられて日米関係の悪化を懸念する声が上がったが、金融・郵政改革担当大臣に落ち着いた。亀井はこのポストに大満足で、「パーフェクト」だと語った。

■亀井・福島の影響力は限定的

 ただし、郵政事業は引き続き総務省の管轄であり、亀井が日本郵政の処遇にどのような役割を果たすのかは明らかでない。結局、大した権限を与えられないまま大臣の椅子を確保しただけということもありうる。

 毎日新聞は、構造改革に反対する亀井が金融庁のトップに立つことを不安視する金融関係者の声を伝えた。ただし、亀井には金融や投資分野での権限はほとんどない。また、今年5月に「次の内閣」財務相だった中川正春が、民主党が政権を握ったら日本はドル建て米国債の購入を控え、円建て米国債(サムライ債)しか買わないと発言した際に、公式の発言でないとオバマ政権にとりなしたのも亀井だった。

 経済学者の池田信夫は、亀井が80年代から闇金融の怪しげな株取引に関与していた件を例に挙げ、亀井の入閣は鳩山政権の先行きにとって不吉な兆しだと論じた。私にはその噂の真偽はわからないが、池田の見解には同意できない点がある。

 池田に言わせれば、鳩山は亀井をコントロールするのに苦労するうえ、亀井が「日本経済を破壊する爆弾」になるという。だが私は、亀井も福島も新政権で大した存在感を発揮できないと思う。どちらのポストもさほど重要ではないし、民主党は全閣僚が賛成しなければ意思決定ができないという原則を見直す予定であり、2人には閣議決定を止める力はない。

 社民党と国民新党が法案に反対すれば、参議院で法案通過を阻止することは可能だ。とはいえ、党首が政策立案に当初から関与している以上、参院でもめるケースは少ないはずだ。

■「大統領」より「議長」型の首相に

 政策決定プロセスを効率化するためにも、福島と亀井を入閣させるのは理にかなっている。さらに、民主党は来年の参院選以降も両党との連携が必要かもしれない。

 民主党はほとんど犠牲を払うことなく3党連立を確実にできたわけで、今のところ福島と亀井の入閣に対する懸念は大げさすぎると言えそうだ。

 鳩山の組閣は見事だったと思う。自分より政策に詳しい人材や党内で独自路線を行く議員にも、彼は臆することなく権限を委譲した。閣内に鳩山の「部下」はおらず、首相に平気で異議を唱える閣僚がそろっている。鳩山が選んだのは、政治家人生の大半を民主党で過ごし、行政改革に熱心に取り組み、小沢一郎に依存していない有能な政治家たちだ。

 私がウォール・ストリート紙に語ったように、鳩山首相は「大統領というより委員会の議長」のような存在になるだろう。彼の役割は、必要に応じて閣内の議論に介入し、重要な政策課題を設定して閣議をまとめること。鳩山は自分の政策を内閣に押し付け、従うよう閣僚に要求するような指導者にはならないはずだ。

 組閣を見るかぎり、鳩山政権は成功に向けて順調なスタートを切ったと言えそうだ。

[日本時間2009年09月16日(水)12時03分更新]

プロフィール

トバイアス・ハリス

日本政治・東アジア研究者。06年〜07年まで民主党の浅尾慶一郎参院議員の私設秘書を務め、現在マサチューセッツ工科大学博士課程。日本政治や日米関係を中心に、ブログObserving Japanを執筆。ウォールストリート・ジャーナル紙(アジア版)やファー・イースタン・エコノミック・レビュー誌にも寄稿する気鋭の日本政治ウォッチャー。

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