農・食・命を考える オランダ留学生 百姓への道のり
世界の味が集まる、味の見本市に行ってきた
イタリア・トリノでは2年に一度、「テッラマードレ・サローネデルグスト(Terra Madre Salone del Gusto)」(テッラマードレは、イタリア語で母なる大地。サローネデルグストは味の見本市)が開かれる。トリノ市民が楽しみにしていて、トリノ中から、いや、世界中から人が集まるイベントだ。2018年には22万の来場者がいて、今年2022年9月には、コロナ禍が始まって以来の4年ぶりに現地で開催された。
スローフードとは?
そこに集まるのは単なる味=飲食品ではなく、「スローフード」。
スローフードとは、私たちの食とそれを取り巻くシステムをより良いものにするための世界的な草の根運動。
(スローフード日本のウェブサイトより)
漁業・養蜂・チーズ・穀物などの様々な食品、そして先住民族、土地はく奪、食と健康など幅広いテーマから、食について考え行動している。薄れつつある食への関心や、ファストフードの台頭などへの対抗でもある。食品に関しては、材料の育て方から調理の仕方まで、各工程が人と地球、そして食材に配慮したものとなっている。
Slow Foodは世界各地に支部があり、日本でもSlow Food Nipponという団体が活動している。
世界のブースを周ってみた
味の見本市には、沢山の国々・地域からの出店があり、とても一日では周り切れなかった。幸い、イベントは5日間開催されていたので、時間をかけて周ることができたが。味見するものが沢山ありすぎて、お腹いっぱい・心も満たされ、頭もいっぱいになってしまったが、思い出せるものの中で特に印象に残ったものを挙げてみる。
まず、フィリピン。カラフルなブースでお客さんを迎えてくれ、ちょっぴり怪しい紫色の紅山芋のリキュールや、カカオを溶かして砂糖と混ぜたホットチョコレートがとても美味しかった。
サウジアラビアのブースでは、何かの植物の葉っぱでお香を焚き、様々な種類のデーツも並んでいた。
興味深かったのは、イタリアでえんどう豆やらレンズ豆やらから味噌・醤油を作っている企業。ひよこ豆味噌、などは私自身聞いたことがあったが、さらに違う種類の豆も発酵させることができるのだと驚いた。
イタリアは、開催地とスローフード発祥の地というだけあり、広くスペースが設けられていて、イタリアの各地域からの出展がずらりと並んでいた。
しかし....各ブースを歩き回っていても、ほぼチーズ・パン・オリーブオイル・サラミの繰り返し。シンプルイズベスト、食材にこだわりつつ質素な食事を楽しめる、それは美しいことだと思う。でも同じような食材ばかりで正直飽きてしまった。
でもよく考えてみたら、日本人が味噌の種類やお米の品種にこだわるのと同じことなのかもしれない。だって、ジャポニカ米はジャポニカ米だし、味噌は味噌....だよね?
それでもやはり、日本各地の食材を集めたら、これほど同色にはならないだろうな、とも感じた。専門家ではないしそれほど深く調べた訳でもないので偉そうなことは言えないが、日本はそれだけ四季折々の食材と、多様な天候・地形に恵まれているのかな、と思う。
日本ブースもあった!
そう、そして肝心な日本も出展していた。
三家の酒蔵、味噌蔵、海藻・醤油・おにぎり・食育に関わっている方々や、アイヌと琉球の方々、農家を継ぐ!という中学生男子など、豪華キャスト。毎日3度のおにぎりのお振舞いはテッラマードレ内でも大人気で、すぐに売れきれてしまっていた。私自身も数回、おにぎりの販売開始時間を狙って日本ブースに行き、いぶりがっこやニンニク味噌、すじ青海苔などの味を試してきた。
ワークショップなどのプログラムも充実
味見と販売のブースだけでなく、スローフードに関するプログラムも沢山開催されていた。同じ時間に行きたいイベントがありすぎて、3人くらいに分身したい気分だった。
まず初めに参加したのが、スピード・ハニー・デート(スピードデートとは、一種のお見合いパーティー)。同じ地域で採れた2種類の蜂蜜の味比べ。私はスイカズラ属の花と、栗の蜂蜜を頂いた。まずは柔らかめの味のスイカズラから。その後、くせのある味の栗を頂く。説明してくれた方の指示で、鼻をつまんで一口。そして指を緩めると....ふんわりとした苦みが感じられた。苦みへの耐性は遺伝で決まるらしく、かつ、子どもの頃から食べてきた味であると比較的受け入れやすかったり、懐かしさを感じたりするらしい。
(2022年9月 筆者撮影 スピードハニーデート。色が薄いのがスイカズラ属の花、濃いのが栗の花の蜂蜜)
その他にも、先住民族の方々による、食と精神性に関するお話し。
瀬戸田のレモンと、イタリア・アマルフィ海岸のレモンのコラボデザートのテイスティング。
スローな情報とは何か、というワークショップ。
食を食べること、作ること、食について伝えること、考えること。食に何かしらの形でかかわる人には(そもそも、私たちは皆食べて生きている!)、必ず一つ刺さるものがある5日間だった。
2024年には自分の商品・ストーリーを持って行きたい!
今回私自身は、オランダの漁師さんたちと参加し、天然牡蠣を開く手伝いもしてきた。
※オランダの漁業事情に関する記事はこちらから。漁業体験に関する動画は後日公開します!
次回2024年はぜひ、自分の関わるコーナーを持って参加できたら、と思っている。
興味のある方は、2024年にトリノで会いましょう!
著者プロフィール
- 森田早紀
高校時代に農と食の世界に心を奪われ、トマト嫌いなくせにトマト農家でのバイトを二度経験。地元埼玉の高校を卒業後、日本にとどまってもつまらないとオランダへ、4年制の大学でアグリビジネスと経営を学ぶ。卒業後は農と食に百の形で携わる「百姓」になり、楽しく優しい社会を築きたい!オランダで生活する中、感じたことをつづります。
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