農・食・命を考える オランダ留学生 百姓への道のり
ケアファーマーの質が問われる:オランダの品質保証制度
認証制度から見えてくる、オランダのケアファームの特徴
ここまで調べてみて、オランダのケアファームは福祉サービスとしてかなり洗練されている印象を受けた。
これだけ組織としての質が問われると、お金目当てで上辺だけの団体や本気でない団体は排除されるだろう。ケアファーム部門全体の透明性が保たれ、品質と信用性が向上する。利用者やその家族にとって、施設を選ぶ際の判断材料ともなる。本気で取り組んでいる団体にとっては、努力の証、誇らしいことだろう。このような枠組みと品質改善に向けた取り組み・支援は評価されるべきものだと思う。
しかし、kljzの費用とFederatie L&Zの会員費を合わせて年間約14万円、現地審査のある年には約25万円という出費は、小規模農家にとっては決して小さいものではないのでは(むろんここでも本気度が問われるのだが)。
また、対象グループを絞って特化した施設は、サービス内容を特定のニーズに合わせ、専門的な支援をすることができる。しかしそこに集まる人の多様性が限られ、それはそれで孤立した社会になってしまうような気もする。
このような制度が、新たな試みには縛りとなる可能性もある。例えば高齢者施設と保育所を合わせた多世代交流の場所をケアファームとするなど、複数の取り組みを掛け算する場合、手続きがややこしい・手数料が高いという問題がありそうだ。
品質の保証は不特定多数に訴えかけるときには役立つけれど、お互いの顔が見える、透明性のある場所では不要だろう。極端な例かもしれないが、いつもお世話になっている近所のおばあちゃんに子どもを預けるとき、そしてお礼をするとき、「あなたの子守りの品質に保証はありますか」なんてことは聞かないと思う。地域のケアファームの事を住民たちが知っていて交流がある場合、そこでのケアの質が良いものか、信頼できるかどうかの判断材料は普段のやり取りの中に溢れているはずだ。農家さんの人柄や働く人の話し声・笑い声・挨拶、野菜を買いに行った時の対応、噂話など...
対して今の社会、集団よりも個人が重視されるようになり、かつ個人が「無名化」した中で、信頼性を普段のやり取りから判断するのは難しい。普段の交流がないのかもしれないし、あったとしても表面的・部分的なのかもしれない。日本の障がい者雇用施設での不祥事は、障がい者雇用という部門そのものの透明性が欠けていることや、社会がタブー視しているところから来ているのでは、と感じてい。
私自身にとって魅力的なのは、年齢・障がいの有無や種類などに関係なく地域のあらゆる人の居場所となるソーシャルファーム。オランダの品質管理制度の一部である品質向上支援・アドバイス等は重宝するだろうが、あまりにも仕組みに縛られるのは勘弁してほしい。今までにない取り組みを自由に行える環境にいたい。
それでも、オランダの障がい者雇用制度に関する記事でも書いたように、現代社会ではしっかりした仕組みで弱者を守ることも時には必要なことは理解している'。だがやはり、人間の直感や感覚による信頼性の判断が消え、何でもかんでも規格に当てはめなければいけない社会はどこか虚しい気もする。
おまけ:オランダのケアファームの歴史に興味がある方は、こちらの動画も参考にしていただければ幸いだ。
著者プロフィール
- 森田早紀
高校時代に農と食の世界に心を奪われ、トマト嫌いなくせにトマト農家でのバイトを二度経験。地元埼玉の高校を卒業後、日本にとどまってもつまらないとオランダへ、4年制の大学でアグリビジネスと経営を学ぶ。卒業後は農と食に百の形で携わる「百姓」になり、楽しく優しい社会を築きたい!オランダで生活する中、感じたことをつづります。
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