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ワールドカップ「退屈」日記

これが南アフリカの7不思議

2010年07月07日(水)13時25分

 南アフリカに来て、そろそろ4週間。最初はわからなかったり、とまどったりしたことも、けっこう自分の中で常識になってきた。

 たとえばこの国のスーパーマーケットではビールが売られていないことを、もう僕は知っている。最初は店を何周もして探したが、ビールはリカーショップでないと置いていないことがわかった。ライセンスの関係なのだろう。

 ワインなら、スーパーマーケットにたくさん置いてある。最初は安さに驚いて、買うのが逆に怖かった。でも日本円にして500円くらいのもので、ふつうにおいしいことがわかった。

 タクシーもそう。ほとんどの車にはメーターがついていないので、ドライバーの言い値で払うか、交渉をすることになる。最初は言われたとおりに払っていたのだが、似たようなルートを別のタクシーで乗ったりすると、彼らの言い値は「ワールドカップ価格」の場合があることがわかってきた。

 このごろは「高いな」と思ったら、「ねえ、冗談でしょ?」と言えるようになった。すると運転手は、すぐに値段を下げる。きのうなんか300ランドと言っていたのに、いきなり200ランドになった。そんなとき彼らは「ちょっと言ってみただけじゃないか、マイフレンド」みたいな口調になる。マイフレンドなら適正価格で乗せてほしい。

 もちろん、いくら4週間いても、どうにもわからないことはたくさんある。いまだに解明できない「南アフリカの7不思議」をあげてみる。


1 冬のスタジアムでアイスクリームが売られている

 いま南アフリカは冬である。温暖なケープタウンやダーバンは別として、ヨハネスブルクあたりの人は、けっこう「寒い、寒い」という。「寒くてごめんね、今は冬なんだよね、仕方ないんだよね」と、申し訳なさそうに言うこともある。

 冬のはずなのだけれど、ワールドカップのスタジアムでは決まってアイスクリームが売られている。ビールが売られているのと同じようなものだから、騒ぐようなことではないのかもしれない。でもビールはスタンド内までは売りに来ないが、アイスクリームは売り子が座席までやって来る。また、これをみんなよく買うのだ。

sizedアイスクリーム.jpg

 そもそも南アフリカの人たちは甘いものが好きみたいだ。レストランなどで会計を頼むと、伝票と一緒に必ずキャンディーなどを持ってくる。ブルームフォンテーンのホテルでは、朝食のビュッフェにアイスクリームのコーナーがあって驚いた。太めの人が目につくのは、国を挙げて甘党のせいかもしれない。

 南アフリカ大会は、ワールドカップ史上初めてスタジアムでアイスクリームが売られた大会として記憶されることだろう(されないか)。


2 歩行者用信号の「青」の時間が短すぎ

 歩行者用信号の青の時間が非常に短い。歩行者が横断できる時間は日本と変わらないのだが、それを青ではなく、赤を点滅させて示すのだ。

 たとえば、歩行者が30秒間渡れる横断歩道なら、青はほんの1秒ほどで、残りの29秒は赤が点滅する。1秒しか表示されない青を見逃したら、あとは赤の点滅。これを「渡るな」という意味に解釈したら、横断歩道は永遠に渡れない。

 こちらに来たばかりのころは、点滅する赤の意味がわからなかったので、信号が何度変わっても、じっとそこにたたずんでいた。赤が点滅しているときに地元の人たちが渡っていることに気づき、ようやく学習したというわけである。

 でも赤が点滅しているのは、せかされている気がして落ち着かない。せめて15秒くらい青にしてもいいんじゃないかと思うのだが、何か理由があるのだろう。


3 ワールドカップ中継の音が途切れる

 テレビでワールドカップ中継を見ていると、現場の音がふっと途切れることがある。ごくごくたまに1〜2秒途切れるだけだから、テレビ中継ではありがちなことかもしれないが、これがほぼすべての試合で起こるとなるとそうとも言えないだろう。たまたま事故が起きたのではなく、何か根本的な問題があることになる。

 まだ原因を突き止めていないのだが、電力不足と関係がないだろうか。一説によれば、南アフリカの電力供給能力は需要の半分程度しかないのだそうだ。テレビを見ていると、たまにニュース速報みたいに "Energy Alert"という文字が出て、「電気の使いすぎに注意してください」と呼びかけるテロップが表れる。

 ホームステイをしたポートエリザベスでは、行政によって月々の電気使用量の抑制目標が決められていた。たとえばある家庭の目標値が300kwhだったら、それをクリアすると無料の電力使用枠がごほうびとして与えられるのだという。

 逆に目標値を超えて電気を使いたいときは、電気を「買いに」行かないといけない。近所の雑貨店などに行き、「30キロワットください」などと言って、お金を払う。するとパスワードとなる20ほどの数字が並んだレシートをくれる。この数字を各家庭のキッチンに据えつけられている機器に入力すると、30kwhが使えるようになるという仕組みだ。ホームステイ先にあった機器はこれ。

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 こんなシステムを運営する費用があれば、発電所の1つや2つ建てられそうな気もするが、そういうものでもないのだろう。「電気を使うということに、とても意識的になる」と、ホストファミリーのお父さんは言っていた。エコなご時世には見習うべき部分があるのかもしれない。


4 ミニバスの料金をなぜかみんな知っている

 ミニバス(乗り合いタクシー)のちょっと面白いシステムについては以前の記事でも紹介したが、いまだにわからないことがある。ルートによって料金はまちまちだし、どこかに料金が表示されているわけでもないのに、乗客が正確に知っているのだ。

 あまりに不思議なので、地元の人とミニバスに乗るたびに「どうしてみんなわかるんですか」と聞いている。すると「こいつは何を不思議がっているのだ」という顔をされ、「誰かが知っているからわかる」「運転手に聞けばわかる」といった答えが返ってくる。でも実際、周りの乗客や運転手に尋ねている人を見たことがない。


5 巨大ショッピングモールに案内板が見つからない

 南アフリカでお買い物といえば、ショッピングモール。これがけっこうな規模で、場所によっては店舗が数百店入っているところもある。

 これまで南アフリカで行った最大のショッピングモールは、ケープタウンのウォーターフロントにあるものだ。海辺の広大な敷地に建てられたモールは、店舗数450。僕が行ったときは日曜日だったうえに、前日に対戦があったドイツとアルゼンチンのファンが押し寄せていて、ちょっと人に酔ってしまった。

 そんな巨大モールで不思議なのが、店の位置を示す案内板がなかなか見つからないことだ。日本だったら、入り口に近いところに案内板が目立つように設置されているだろうし、客が自由に持って行けるマップが置かれているだろうけど、そんなことはまったくない。450店あるケープタウンのモールで、確認できた案内板は1カ所だけだった。

 どう考えても、目的の店に簡単に行けるとは思えない。実際、僕はとても苦労した。地元の人たちにとっては、目的の店に行くことがショッピングモールに出かける目的ではないのかもしれない。


6 レストランやカフェのスタッフがやたらと多い

 30席くらいの外食店に、ウェイター、ウェイトレスが10人くらいいたりする。だから客が少ないときは、みんなずらっと並んで、暇そうにおしゃべりしている。それはそれで悪くない時間の過ごし方にみえるけれど、人をよけいに雇えば人件費がかさむわけだから、どうなのだろうと思う。

 地元の人に聞いたら「賃金が安いからかもしれないね」。でも、賃金が安いから人をたくさん雇えるのか。それとも人をたくさん雇っているから、賃金が安く抑えられているのか。


7 みんな、どうしてこんなに人がいいの?

 南アフリカの人たちはとてもフレンドリーだ(もちろん、たいていの人はということだが)。

 タクシーに乗ると、運転手が「やあ、僕はマイケルだ」と自己紹介して握手を求めてくる。東洋人がレストランでひとり寂しくビールを飲んでいると、3人ぐらいのグループが「こっちに来ないか」と誘ってくれる。ポートエリザベスのホストファミリーのお父さんは、スタジアム周辺のとんでもない人混みの中で、ずっと僕の手を握って誘導してくれた。

 少なくとも、100メートル歩けば身ぐるみをはがれるような「強盗だらけの国」ではない。

*原稿にする前のつぶやきも、現地からtwitterで配信しています。

*南アフリカから帰国後の7月19日(月・祝)に、「ワールドカップ『退屈』日記・総集編」と題したトークイベントを開催します。詳細はこちら

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BLOGGER'S PROFILE

森田浩之

ジャーナリスト。NHK記者、Newsweek日本版副編集長を経て、フリーランスに。早稲田大学政経学部卒、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)メディア学修士。著書に『スポーツニュースは恐い』『メディアスポーツ解体』、訳書に『「ジャパン」はなぜ負けるのか─経済学が解明するサッカーの不条理』など。