コラム

何故、日本がウクライナ問題でロシア制裁に同調すべきでないか

2022年01月27日(木)17時11分

その際、日本が置かれている状況はウクライナよりも複雑である。なぜなら、日本は中国だけでなくロシアも含めた二正面作戦を強いられる可能性があるからだ。

ロシアの軍事力拡大は実はオホーツク海地域でも着々と行われている。原子力潜水艦部隊が強化されるとともに、電波妨害施設整備などの拠点化が進み、カムチャッカ半島周辺での軍拡は近年特に顕著となっている。これらは対日というよりは対米の備えであると見做すべきであろうが、日米同盟が存在する以上日本も無関係とは言えない。

東シナ海や南シナ海で中国の軍事的脅威に向き合うことが求められる以上、日本にとって自らの北方に明確な敵勢力を抱えることは避けたい事態である。

そのため、ウクライナ問題でロシアに対して安易な制裁を欧米とともに行うべきかは思案の為所となってくる。

岸田政権が欧米と同レベルの制裁を科すことは意味がない

日本から見た場合、ウクライナ問題は人道上の問題はあるが、地政学的な当事者とは言えない東欧の問題に過ぎない。それに対して、ロシアに日本が主権を持つ外交上のプレーヤーであることを認めさせ、東アジアにおいて中国に過度の肩入れをしないように仕向けることは極めて重要だ。対ロ方針も明確に定まらない欧米のために、日本にロシア軍の脅威という軍事的問題を必要以上に招き入れることは得策ではない。

したがって、岸田政権がここで単純に欧米に言われるがまま追従して欧米と同レベルの制裁を科すことはあまり意味があるように思えない。

そのため、一つのアイディアとして、ロシアがウクライナに侵攻した場合の日本の制裁表明は、中国の対ロ制裁方針を見極めてからとするのはどうだろうか。中国もロシアのウクライナ侵攻があった場合、ロシアに対して何も制裁しないというわけにもいかないだろう。その際、日本も中国の対ロ制裁内容に歩調を合わせる程度の対応で留めることを検討するのだ。

もちろん、日本がこのような態度を示した場合、バイデン政権は不満であろうが同盟関係の形式的な関係以上に、日本は生き残りに向けて真剣に国際問題に対処すべき段階に入っている。仮にバイデン政権がそのような日本の態度を改めたいなら、岸田政権は対ロ関係悪化の代償に何をよこすのかを強烈に迫るべきだ。

欧州の対立構造を東アジアに持ち込ませないこと、バイデン政権がその一点に勝る何かを日本に提供できるとは現状では想定できない。

プロフィール

渡瀬 裕哉

国際政治アナリスト、早稲田大学招聘研究員
1981年生まれ。早稲田大学大学院公共経営研究科修了。 機関投資家・ヘッジファンド等のプロフェッショナルな投資家向けの米国政治の講師として活躍。日米間のビジネスサポートに取り組み、米国共和党保守派と深い関係を有することからTokyo Tea Partyを創設。全米の保守派指導者が集うFREEPACにおいて日本人初の来賓となった。主な著作は『日本人の知らないトランプ再選のシナリオ』(産学社)、『トランプの黒幕 日本人が知らない共和党保守派の正体』(祥伝社)、『なぜ、成熟した民主主義は分断を生み出すのか』(すばる舎)、『メディアが絶対に知らない2020年の米国と日本』(PHP新書)、『2020年大統領選挙後の世界と日本 ”トランプorバイデン”アメリカの選択』(すばる舎)

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