コラム

空文化するバイデン政権の規制改革

2021年09月21日(火)15時46分

バイデン政権は、40年間継続してきた米国の超党派の規制改善の歴史を終わらせる可能性がある...... REUTERS/Jonathan Ernst

<米国では政権が代わっても共和党・民主党ともに規制改革の重要性を意識してきた。バイデン政権の規制改革全般の状況について評価する......>

2021年9月22日、拙著『無駄(規制)をやめたらいいことだらけ 令和の大減税と規制緩和』(ワニブックス)が発刊された。この本は日本が持っている潜在的な可能性を規制改革によってどのように引き出すのか、について歴史の小話などを挟みながら楽しく読めることを狙ったものだ。

そこで、今回の記事では日本の規制改革に関する現状を理解するため、バイデン政権の規制改革全般の状況について評価していこうと思う。

規制改革が本格的に着手されたのは約40年前レーガン政権から

米国の規制改革が本格的に着手されたのは約40年前レーガン政権からだと言って良いだろう。具体的にはレーガン政権によって1981年に発令された大統領令12991は、全ての規制が交付前に行政管理予算局(OMB)からの評価を受けるように求め、重要な影響を与える規制である場合には規制コストの算出を徹底することが義務付けたことのインパクトは非常に大きなものだった。

以後、米国では政権が代わっても共和党・民主党ともに規制改革の重要性を意識し、その手法に改善を加える切磋琢磨を継続してきた。そして、ホワイトハウスの機関である行政管理予算局(OMB)と情報規制問題室(OIRA)は規制改革において中心的な役割を果たし続けており、規制改革と規制評価はどの政権においても重要な政策課題として位置付けられてきた。

このような規制経済コスト算出や規制制定プロセスの透明化は、OECD諸国では当たり前に取り組まれており、欧州各国においても積極的な取り組みがなされている。特に英国での取り組みはベストプラクティスとして知られており、規制コストの算出だけでなく規制コストの総量削減や全面的に公開された規制策定プロセスなどが高い評価を受けている。

米国第一主義の唯我独尊の人物に見えたトランプ前大統領は、意外にも2016年に規制改革に関する大統領令を発し、欧州諸国の規制改革に関する先行事例を大胆に取り入れる改革を行っていた。

トランプ前大統領が導入した具体策は「各省庁に対して規制増加を抑制することを求める規制予算」や「不要な規制2つを規制1つの新設時に求める2対1ルール」の創設などである。これらの改革が徹底された結果として、当時のホワイトハウスが公表したデータによると、2017年度の僅か1年で連邦政府は計画されていた1579本の規制について、635本を撤回し、244本が活動停止、700本が延期されており、将来に渡る$8.1Billion(約1兆円弱)に及ぶ成果を上げたとされている。

バイデン政権は米国の規制改善の歴史を終わらせる?

一方、バイデン大統領も就任初日に規制改革に関する大統領令を発令している。

その内容はトランプ政権時代の規制改革を白紙に戻すものだった。具体的には、上述の規制予算や2対1ルールは廃止され、各省庁に配備された規制改革のためのスタッフも取り除かれた。その上で、クリントン・オバマ時代の大統領令を範としつつ、規制評価に定量的に測定困難な正義や尊厳などの概念を盛り込んだ報告を行政管理予算局に行うように求めている。

プロフィール

渡瀬 裕哉

国際政治アナリスト、早稲田大学招聘研究員
1981年生まれ。早稲田大学大学院公共経営研究科修了。 機関投資家・ヘッジファンド等のプロフェッショナルな投資家向けの米国政治の講師として活躍。日米間のビジネスサポートに取り組み、米国共和党保守派と深い関係を有することからTokyo Tea Partyを創設。全米の保守派指導者が集うFREEPACにおいて日本人初の来賓となった。主な著作は『日本人の知らないトランプ再選のシナリオ』(産学社)、『トランプの黒幕 日本人が知らない共和党保守派の正体』(祥伝社)、『なぜ、成熟した民主主義は分断を生み出すのか』(すばる舎)、『メディアが絶対に知らない2020年の米国と日本』(PHP新書)、『2020年大統領選挙後の世界と日本 ”トランプorバイデン”アメリカの選択』(すばる舎)

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

NY外為市場=ドル急伸し148円台後半、4月以来の

ビジネス

米金利変更急がず、関税の影響は限定的な可能性=ボス

ワールド

中印ブラジル「ロシアと取引継続なら大打撃」、NAT

ワールド

トランプ氏「ウクライナはモスクワ攻撃すべきでない」
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:AIの6原則
特集:AIの6原則
2025年7月22日号(7/15発売)

加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」。仕事・学習で最適化する6つのルールとは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「二度とやるな!」イタリア旅行中の米女性の「パスタの食べ方」に批判殺到、SNSで動画が大炎上
  • 2
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長だけ追い求め「失われた数百年」到来か?
  • 3
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」だった...異臭の正体にネット衝撃
  • 4
    真っ赤に染まった夜空...ロシア軍の「ドローン700機…
  • 5
    「このお菓子、子どもに本当に大丈夫?」──食品添加…
  • 6
    「史上最も高価な昼寝」ウィンブルドン屈指の熱戦中…
  • 7
    約3万人のオーディションで抜擢...ドラマ版『ハリー…
  • 8
    「オーバーツーリズムは存在しない」──星野リゾート…
  • 9
    「巨大なヘラジカ」が車と衝突し死亡、側溝に「遺さ…
  • 10
    歴史的転換?ドイツはもうイスラエルのジェノサイド…
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首」に予想外のものが...救出劇が話題
  • 4
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 5
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 8
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 9
    エリザベス女王が「うまくいっていない」と心配して…
  • 10
    「二度とやるな!」イタリア旅行中の米女性の「パス…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story