コラム

日本の将来を担う医師の卵が海外流出...「ブレインドレイン」を防げ

2024年10月11日(金)20時19分
トニー・ラズロ(ジャーナリスト、講師)
医師への狭き門を目指す医学部生たち

KOKOUU/ISTOCK

<海外で医師になることを目指す日本人学生が増えている。日本も外国人医師に道を開かなければ将来的な医師不足に陥りかねない>

やっぱり医師になりたい──。知人の大学生が夢を熱く語っていた。ただ、彼は英文学の学士号を取るために進学したばかり。文系学生が医者になるなんて果たして可能なのか?

そんな疑問に彼はこう答えた。「日本では難しいから海外に行く」

志が高いのはいいが、誰でも医師になれるわけではない。日本の国公立大学の医学部における偏差値は65前後で、抜群の学力が必要だ。さらに親の経済力も問われる。



国公立大学の学費は6年間で平均350万〜400万円。私立なら10倍近くになるという。医学部入試、不断の学習、国家試験合格、初期臨床研修、専門研修......。

この全てをクリアして一人前の医師になれる人は、恵まれた学力と経済力を持ち合わせた稀有な人で、ほぼ限られた境遇の人だけだろう。日本は人口1000人当たりの臨床医密度は約2人で、OECD(経済協力開発機構)加盟国の中で下位に沈む。

地方では特に医師不足が深刻で、休みなしで働き、時間外労働が過労死ラインの月平均80時間を大幅に超える医師は少なくない。100日間連続勤務で時間外労働が月200時間を超え、過労死に追い込まれたケースもある。もちろん、医師不足は何も日本だけの問題ではなく、高齢化する多くの先進国の共通課題だ。

アメリカでは2034年に医師が12万人以上も不足する見込みで、複数の州は積極的に海外の医師を受け入れるための規制緩和に動いている。イギリスでは今年、インド出身の医師約2000人を研修医として受け入れる方針を表明した。

一方で、超高齢化社会を迎える日本では、いまだにこうした本格的な対策は見られない。そうしたなか、海に進学して医学の勉強ができないかと模索する日本人が出てきている。

海外といえば、オックスフォードやケブリッジなどの名門を連想するかもしれない。だが、知人はハンガリーやブルガリア、イタリアなどEU圏に目を向ける。

例えばハンガリーでは、英語で受講可能なコースを提供する4つの大学から卒業した日本人の数は、14年度には13人だった。それが近年は30人台で推移し、昨年度は44人と着実に増えている。

なぜか。これらの国は学費や生活費が比較的低い利点がある。医学部を英語で受けられる特別コースがあり、「国家試験に合格したら、EUの好きな国で研修医として働けばいい」(知人)。学費の補助支援制も魅力だ。経済的余裕がないことが認められれば、返済不要の奨学金が支給され、完全に免除されるケースもある。

もちろん、デメリットもある。日本と比べて卒業の難易度が高い傾向にあることだ。万が一、卒業できなかった場合のプランBをしっかり備える必要があるだろう。

プロフィール

外国人リレーコラム

・石野シャハラン(異文化コミュニケーションアドバイザー)
・西村カリン(ジャーナリスト)
・周 来友(ジャーナリスト・タレント)
・李 娜兀(国際交流コーディネーター・通訳)
・トニー・ラズロ(ジャーナリスト)
・ティムラズ・レジャバ(駐日ジョージア大使)

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

JPモルガン、四半期利益が予想上回る 投資銀行好調

ビジネス

FRB、11月と12月に0.25%利下げの観測 P

ワールド

レバノン国連部隊、爆発で2人負傷 イスラエル作戦継

ビジネス

米PPI、9月前月比変わらず・前年比予想上回る+1
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:米経済のリアル
特集:米経済のリアル
2024年10月15日号(10/ 8発売)

経済指標は良好だが、猛烈な物価上昇に苦しむ多くのアメリカ国民にその実感はない

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「地球が作り得る最大のハリケーン」が間もなくフロリダ上陸、「避難しなければ死ぬ」レベル
  • 2
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」ものはどれ?
  • 3
    南極「終末の氷河」に崩壊の危機、最大3m超の海面上昇、バングラデシュ水没に【最新報告書】
  • 4
    「メーガン妃のスタッフいじめ」を最初に報じたイギ…
  • 5
    北朝鮮製ミサイルに手を焼くウクライナ、ロシア領内…
  • 6
    コストコの人気ケーキに驚きの発見...中に入っていた…
  • 7
    ウクライナには「F16が緊急にもっと必要」だが、フラ…
  • 8
    ヒズボラ指導者の殺害という「勝利の美酒」に酔うネ…
  • 9
    パートタイム就労が正規・非正規という「身分差」と…
  • 10
    2匹の巨大ヘビが激しく闘う様子を撮影...意外な「決…
  • 1
    「地球が作り得る最大のハリケーン」が間もなくフロリダ上陸、「避難しなければ死ぬ」レベル
  • 2
    キャサリン妃がこれまでに着用を許された、4つのティアラが織りなす「感傷的な物語」
  • 3
    コストコの人気ケーキに驚きの発見...中に入っていた「まさかのもの」とは?
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」ものはど…
  • 5
    2匹の巨大ヘビが激しく闘う様子を撮影...意外な「決…
  • 6
    借金と少子高齢化と買い控え......「デフレ三重苦」…
  • 7
    ウクライナ軍がミサイル基地にもなる黒海の石油施設…
  • 8
    戦術で勝ち戦略で負ける......「作戦大成功」のイス…
  • 9
    「核兵器を除く世界最強の爆弾」 ハルキウ州での「巨…
  • 10
    ウクライナに供与したF16がまた墜落?活躍する姿はど…
  • 1
    「LINE交換」 を断りたいときに何と答えますか? 銀座のママが説くスマートな断り方
  • 2
    ベッツが語る大谷翔平の素顔「ショウは普通の男」「自由がないのは気の毒」「野球は超人的」
  • 3
    「地球が作り得る最大のハリケーン」が間もなくフロリダ上陸、「避難しなければ死ぬ」レベル
  • 4
    ウクライナに供与したF16がまた墜落?活躍する姿はど…
  • 5
    「もはや手に負えない」「こんなに早く成長するとは.…
  • 6
    漫画、アニメの「次」のコンテンツは中国もうらやむ…
  • 7
    ウクライナ軍、ドローンに続く「新兵器」と期待する…
  • 8
    北朝鮮、泣き叫ぶ女子高生の悲嘆...残酷すぎる「緩慢…
  • 9
    エコ意識が高過ぎ?...キャサリン妃の「予想外ファッ…
  • 10
    キャサリン妃がこれまでに着用を許された、4つのティ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story