コラム

ここがヘンだよ日本の永住権...エリート外国人には「踏み台」に使われ、非エリートには差別的

2024年06月07日(金)10時49分
石野シャハラン(異文化コミュニケーションアドバイザー)
永住権, 技能実習制度, 技能実習生, 育成就労制度, 外国人住民, 高度外国人材, 特別高度人材制度

TREVOR WILLIAMS/GETTY IMAGES

<優遇される「高度外国人材」は日本を踏み台にして他国に流出する。一方、それ以外の在日外国人の扱いは永住権を「剥奪」しやすくするなど、ひどくなるばかり>

技能実習制度に代わって外国人材を受け入れるための育成就労制度の創設を柱とした出入国管理法などの改正案が今国会で成立見込みだ。

現在の制度に問題が多いことは、私も承知している。企業や団体が実習生を不当に扱っても転籍(転職)できない、家族を帯同できないなど、国際社会から人権的に多くの問題があると指摘されてきたが、そのとおりだと思う。

だが今回の法改正も、問題がないわけではなさそうだ。実際には転籍のハードルが高いことや、母国の送り出し機関に多額の借金をして来日した労働者の借金負担を減らす具体的な対策が示されていないこと。

加えて、法改正では外国籍住民が故意に税金や社会保険料を払わない場合は永住権を取り消せるようになるという。特に私はこの永住権取り消し厳格化が非常に引っかかる。税の滞納に関しては既に刑事罰などがあるし、また外国籍者の納税率が特に低い統計があるわけではないのだ。差別的制度という指摘があるのもうなずける。

日本で永住権を取り、海外へ移住

そもそも私は以前から日本の永住権付与の条件について、疑問を感じていた。昨年4月から特別高度人材制度が導入され、学歴や年収などが一定の水準以上であれば永住許可などを優遇する措置が始まった。従来より高度人材は経歴によるポイント加算制で、70点以上だと在留期間が継続して3年、80点以上では1年で永住許可を申請できたが、さらに厚い優遇が受けられる。

一方でポイントが低い人は10年間、真面目に働き、納税してやっと申請できる。私はこれをあまりに不公平だと感じるが、それでも高度人材、つまり高い専門性や知識を持つ外国人が日本に永住してくれるのなら日本の国益にかなうではないか、と思われる方も多いだろう。だが、高度人材の永住要件緩和が日本を大きく利するかといえば、必ずしもそうとは言えないようだ。

問題なのは、高度人材で日本に定着しないケースが見られるということだ。円安で相対的に稼げる金額が低く、日本語ができないととても不自由で、バイデン米大統領にまで「外国人嫌い」と言われてしまう日本に、どの国でも通用する高度人材が長く住むことがあるか、確かに疑問ではある。

それでも日本の奨学金で来日し、大学院で博士号を取り就職するなどして、高度人材となり永住権を取得する外国人が多くいる(昨年12月の累計で4万人超)のはなぜだろう。

それはほかの国に行くため、だ。日本の永住権を持っていれば、多くの国で高く評価される。また永住権を持っていれば他国での生活や仕事が思うようなものでなかった場合、いつでも日本に戻れる。つまり、高度人材の中には日本が「プランB」となってしまっている人がいるのだ。

プロフィール

外国人リレーコラム

・石野シャハラン(異文化コミュニケーションアドバイザー)
・西村カリン(ジャーナリスト)
・周 来友(ジャーナリスト・タレント)
・李 娜兀(国際交流コーディネーター・通訳)
・トニー・ラズロ(ジャーナリスト)
・ティムラズ・レジャバ(駐日ジョージア大使)

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

中国10月物価統計、PPIは下落幅縮小 CPIプラ

ワールド

フィリピン、大型台風26号接近で10万人避難 30

ワールド

再送-米連邦航空局、MD-11の運航禁止 UPS機

ワールド

アングル:アマゾン熱帯雨林は生き残れるか、「人工干
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 2
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216cmの男性」、前の席の女性が取った「まさかの行動」に称賛の声
  • 3
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評家たちのレビューは「一方に傾いている」
  • 4
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統…
  • 7
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 8
    レイ・ダリオが語る「米国経済の危険な構造」:生産…
  • 9
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 10
    「非人間的な人形」...数十回の整形手術を公表し、「…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 5
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 6
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 7
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 8
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 9
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 10
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 8
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story