日本の皆さん、習近平は「シー・チンピン」でなく「しゅう・きんぺい」でお願いします
HISAKO KAWASAKI-NEWSWEEK JAPAN
<書籍や雑誌、テレビ番組の字幕で「中国人名の現地読み(中国語読み)」がよく使われている。リベラル派による配慮なのかもしれないが、できればやめてもらいたい>
最近、散歩中のご近所さんに会って長々と立ち話をしていた際に、少々困ったことがあった。
浅田次郎の中国歴史小説が話題に上ったのだが、彼女がどの登場人物のことを話しているのか、さっぱり分からなかったのだ。
「ヅチンチヨンに攻め込んだリイヅチヨンが......」
何度か聞き返して、ようやく「紫禁城に攻め込んだ李自成(明朝を亡ぼした農民反乱軍の指導者)」のことだと分かった。
日本の書籍や雑誌、テレビ番組の字幕で「中国人名の現地読み(中国語読み)」がよく使われている。ニューズウィーク日本版でも例えば、習近平に「シー・チンピン」とルビが振られているが、あれである。
日本の中国歴史小説が大好きな私は、これまで井上靖や水上勉、陳舜臣らの作品を数多く読んできたが、ひと昔前なら人名に日本語読みのルビを付けていた歴史小説にも、いつしか中国語読みが散見されるようになった。
ところが、この現地読み、在日中国人にとっては悩みの種だ。片仮名の表記を読んでも中国語の漢字を連想することが難しく、また日本人がそれを口にしても、何を指しているか分からないのである。
漢字にルビならまだいい。先日出演したテレビ番組では「第2のファン・ビンビン騒動」が取り上げられたが、字幕やスタジオの解説ボードに書かれた名前は片仮名のみ。漢字は一切使われなかった。
ご存じない方のために説明すると、中国で現在、ジェン・シュアンという女優に巨額脱税疑惑がかけられており、それが3年前にあった女優ファン・ビンビンの脱税事件とそっくりなのだ。
鄭爽(ジェン・シュアン)と范冰冰(ファン・ビンビン)。2人とも超の付く有名人で、在日中国人たちも漢字を見ればすぐにピンとくる。ところが片仮名だけだと、頭の中が「?」で埋め尽くされてしまう。
この事件はネットニュースでも片仮名だけの表記が多く、「人名表記が意味不明」だと中国人の間で話題になった。
片仮名のように音をそのまま表現する表音文字を持たない中国人は、日本人の名前の漢字を中国語で発音する。
逆もしかりで、母音も子音も少ない日本語で中国語の音を表現するのは至難の業だ。実際、中国人がパッと聞いて分かる片仮名表記はほとんどないだろう。