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Editor's Note

はやぶさを事業仕分けない無責任

2010年06月15日(火)15時32分


 地球に帰還した小惑星探査機「はやぶさ」について、昨年11月の事業仕分けで後継機「はやぶさ2」等の開発予算を削ったことを民主党が今さら弁解している。枝野幹事長は「もう少し工夫すれば、少ないお金で同じ効果を上げられるのではないかという議論だった」「成果につながることを続けることは、決して否定していない」。蓮舫行政刷新担当相は「宇宙開発は私は直接担当しておらず、今一度流れを確認している」「仕分け結果を何が何でも守るべきだということではない」。

 見苦しい。「はやぶさが帰って来ようと来まいと、仕分けたものは削ります」となぜ言わないのか。蓮舫大臣は「国民のさまざまな声やご判断は次期予算編成に当然反映されるべき」とも語ったようだが、仕分けた当事者側の人間が言うべきことだろうか。あなたがそれを言っちゃあおしまいよ、という話だ。何か成果を挙げれば見直されるなら仕分けられた他の事業だって黙っていないだろうし、そもそも予算に反映されるべき「国民の声」とか事業を続けるに値する「成果」とは具体的に何が基準なのか。

 衛星やロケットを打ち上げるJAXA(宇宙航空研究開発機構)の事業が行政刷新会議のワーキンググループにかけられたのは、2009年11月17日。概算要求58億円のGXロケット開発が廃止されたほか、259億円の無人補給機HTVや、人工衛星の開発予算が1割減となった。「はやぶさ2」は名指しこそされなかったが、そもそも概算要求に入っていなかったこともあり、開発継続は絶望視されたという。

 気になるのは、そのわずか2日後の11月19日にJAXAが緊急記者会見を行い、2週間ほど前にエンジンに異常が発生していた「はやぶさ」のトラブル解決策が見つかり、うまくいけば地球に帰還できると発表していたこと(見込み時期は発表されなかったが、もともとの帰還予定が2010年6月だった)。予算を削られたから慌ててトラブルを処理した、などということはあり得ないだろうから、結果的に帰還を実現させた技術的な対処と事業仕分けがほぼ同時並行で進んでいたことになる。

 となると、実際に帰還して大騒ぎになってから言い訳をするということは、事業仕分けで宇宙開発予算を担当した第3ワーキンググループの評価メンバーが昨年11月の段階で「はやぶさ」の重要性や偉業についてろくに認識していなかったか、認識はしていたが仕分けを急いでいたからあえて無視したか、エンジンの再起動に成功したというJAXAの川口淳一郎教授と國中均教授の説明を信用しなかったかのいずれかだろう。そうではないと言うのなら、仕分け段階での検討が不十分だったと率直に詫びるか、もしくは仕分け結果は基本的に遵守すると突っぱねなければ、仕分けた側としては筋が通らないし、仕分けられた他の事業に対してフェアでない。

 ムダを削ることは大賛成だが、昨年や今年のこのタイミングで事業仕分けを行うことは、個人的にはいまだに納得がいかない。国家戦略がないまま事業を断片に刻んで削るのは、家のリフォームで設計図がないまま「これあまり使ってないからムダだよね」「これもっと安いのでいいよね」と、ドアや収納や照明をどんどん減らしたり建材の質を落としているようにしか思えないし、なぜこれを予算委員会でやらないのかという意見は100%その通りだと思う。

「PIGS」の一角イタリアでは芸術・文化関連予算が3割カットされることになり、ミラノ・スカラ座やローマ歌劇場のオペラが存続に危機に立たされるとして反発が強まっている。「財政再建」「社会保障財源の確保」「国を象徴する伝統文化」「海外でも評価される宇宙開発」とカードを並べて、どれを優先してどれを諦めるかといった議論に誰もが納得する結論は出るはずもないし、そこにどうにか決着をつけるためにそもそも政治は存在している。

 GXロケットのように「成果」が期待できない事業が廃止されたのは仕分けの成果とも思う一方、結果的にはやぶさの技術的遺産を継承するために後継機の開発を復活させるとなったとしても理解できるが、少なくとも仕分け人は仕分け結果に責任をもってもらわないと困る。


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竹田圭吾

1964年東京生まれ。2001年1月よりニューズウィーク日本版編集長。

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