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鳩山辞任の責任と無責任

2010年06月02日(水)12時52分


 鳩山首相が辞めた。両院議員総会でのよどみないスピーチはもっともらしい内容だったが、放り出したことには変わりない。安倍、福田の2人の総理が無責任にも辞めたのと同じではないか、というそしりは免れないだろうが、苦々しいことに選挙戦略としては理にかなっている。

 自民党は舌打ちをしているだろう。「政治とカネ」のイメージにまみれた鳩山、小沢の体制のまま参院選を迎えるほうが、野党は戦いやすかった。去年の総選挙で麻生自民党に民主党が大勝したのと同じ構図だ。だから鳩山首相も、辞任のスピーチで「これで民主党はクリーンになる」とくどいほどに強調した。

 実際には、首相と幹事長が辞めただけで政治がクリーンに、民主党がクリーンになるわけではまったくない。これで政治倫理審査会での議論もなく、政治とカネの問題は返ってうやむやになる。普天間問題の迷走が「なかったこと」になるわけでもない。選挙戦略としては理にかなっているが、姑息だ。政権たらい回しをあれだけ批判していたのだから、辞めるなら衆議院を解散しなければ筋も通らない。

 政党とメディアは見誤っている。人々がうんざりしているのは「政局政治」だ。政治は「何をやるか」、政局は「誰がやるか」。政局と選挙にかまけて政治をしない自民党に愛想を尽かして、去年の総選挙で有権者は民主党に雪崩を打った。なのに鳩山首相は深入りする必要もなかった基地問題に深入りして、自ら社民党離脱という政局を作り出した。

 新聞やテレビは短絡的な世論調査を繰り返して、政局を煽った。政治判断や司法捜査の結果がまだ出ないうちに、ニュースの一報が出るごとに内閣や与党の支持率調査をたびたび行って、どんどん下落する。火事が燃え盛っている現場で「やはり火の元には気をつけたほうがいいと思いますか?」と聞いているようなものだから、聞かれたほうは深く考えない。

 世論調査には、個々の細かな政策への意見もにじんでいる。だがそれを丁寧に検証するのではなく、ネットリサーチでも済みそうな単純支持率の数字だけが新聞の1面にでかでかと躍る。しかめ面をしているが、実は政局になってうれしそうな記者たちが永田町を駆け回り、やれ退陣要求だ駆け引きだと紙面や番組で煽る。政局を商売にしている。マッチポンプだ。麻生政権もそうして、政策ビジョンの問題点をきちんと追及されることもなく「雰囲気」で追い込まれた。

 鳩山首相は辞めるべきでなかった。政治とカネ、事業仕分け、高速道路の無料化や子供手当て、普天間問題、あきれた内容の郵政改革見直し、すべてひっくるめて参院選で信を問われるべきだった。選挙のために政治をするのはいい加減にやめて、政治のために選挙をしてほしいと有権者は願っている。去年の衆院選で示されたその意思を鳩山政権、小沢民主党は裏切った。「政策政治」の実現にどう回帰するか。誰が次の首相になろうと、民主党が信頼を回復するチャンスはそこにしかない。

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竹田圭吾

1964年東京生まれ。2001年1月よりニューズウィーク日本版編集長。

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